9.積み重ね

「卯羅」

 登校中、後ろから声を掛けられた。振り向くと、治くん。

「おはよう、治くん」

「今日放課後は?」

「まだ決めてない」

「じゃあ、私が決めて善い?」

「うん!」

 教室まで一緒。この間の席替えで少し遠くなっちゃった。寂しい。治くんは不貞腐れてるのか、ずっと寝てる。織田作の授業の時は起きてるけど。

 この間、意を決して買ったインスタントカメラ。アルバムのページもたくさん増えた。

「卯羅ちゃん、今日放課後、暇?」

「今日、治くんとお出掛けなの。ごめんね」

 放課後、人気のタピオカ屋さんに行こうと誘われたけども。治くんと少しでも居たいの。女の子のお友達はいつでも作れるけど、幼馴染はもう作れない。

 授業中、治くんを眺める。

 やっぱり寝てるなぁ……あ、隣の子と話してる。それ私の膝掛けなんですけども。ちょっと、嫉妬。此方見てよ。

 あ、此方見た。

 治くんの仕草に顔が熱くなる。な、に、授業中だけども!

 次の休み時間。

「治くん!」

「なあに?私の方見つめて」

「投げちゅは狡い」

「好きでしょ?だって」

 悪びれもせず。にこにこと。「だって卯羅、遠いんだもの」

「遠いけどさ……」

「で、放課後なのだけど。私の家、来る?」

「治くん家久しぶり!行くー」

「じゃあ紅葉さんに私から連絡しておくよ」

 治くんのお家に行く時は、いつも治くんがママに連絡してくれる。私も一応連絡するけど。

「ママ、善いよって」

「ね。こんな男を信用してくれる紅葉さんは優しいね」

「治くん優しいもの」

 開けたフィルムの箱は、私たちの思い出の数、なのかな。これからもまだまだ積み重ねなきゃ。

 幼稚園からの、ずっと大好きな幼馴染。

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