6.笑顔

 何よりも大切だと思った。

 初めて幼稚舎で会った時から、その笑顔を守りたいと。縫いぐるみに嫉妬した事もあった。けれど、彼女なりの寂しさの紛らわし方。それを理解してから、その穴を埋めてやりたいと思うようになった。

 先日の放課後、少しばかり出掛けた時、インスタントカメラを買ったと、楽しそうに見せてくれた。

「卯羅、今日は何処行こう?」

「今日?そうねー……お散歩しよ!おやつ買って、公園で食べるの」

 港を望む公園の出店で、クレープを買い、芝生に座る。卯羅は例のカメラを出して、風景を撮ったり、クレープを撮ったり。熱心だなぁとぼんやりしていると、近くでシャッターを切る音。

「治くん、クリーム付いてる!」

 楽しそうに、私の口元に付いたそれを、舌で、舐め取った?本人はにこにこ笑い、治くんたらー、等と云っている。

「悪い子だなぁ、卯羅は」

「悪い子?」そうやって首を傾げるんだ。

 他の男なら今すぐ襲われてるよ。

 なぁんて云ったら、怒るだろうな。「治くん以外の男の子なんてどうでも善いんだもん」って。その言葉を聞く度に、自惚れても善いかい、と訊きたくなる。

「治くんが構ってくれるなら悪い子でいる」

 治くんの脚の間に座る、と潜り込んでくる。嬉しそうに甘味を頬張る姿は本当に兎のよう。

「小悪魔な子兎ちゃんかい?」

「子兎ちゃんじゃないもん」

「小さい頃、兎の縫いぐるみずっと抱き締めていたじゃないか」

「だって寂しかったんだもん」

「兎ちゃんは寂しいと死んじゃうんじゃなかった?」

「治くんが居るから寂しくないもん」

「"兎ちゃん"は否定しないのかい?」

 少し考えて、またクレープ。それからもう一度考える。「兎ちゃん、好きでしょ?」

「とても好物」

 振り向いて、満足そうな笑顔。この顔が好き。初めて君が見せてくれた、その顔が好き。

「今度いつお泊まりして善い?」

「紅葉さんが許してくれたら」

 また一つ、笑顔の君が増えた。

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