第3話 奇策と店主
男は猫を呼んだ。猫は男に寄ってきた。男は猫を撫でて、抱き上げた。店主が慌てて猫の毛が抜けて洋服についてしまいますので抱き上げ無い方が…と言ったが男はそのまま抱っこしてあげた。そして男は尋ねた。
「爺さん、この猫可愛いなぁ。これ一匹を飼っているのかい?」
店主は、
「自宅に十匹ほどおりますが日替わりで連れてきております。皆可愛いんですよ。」
と答えた。すると男は、
「そうなの、羨ましいねぇ。実はさ、うち猫好きでさ、妻も大好きだし一匹飼っていたんだけどこないだ死んじゃってさ、そっから妻塞ぎ込んでんの。どうだいそんなに猫いるんだったらさ、一匹くらい譲ってくれないかな?妻を喜ばせたいんだよ。うん。もちろんタダとは言わない。十万円で譲ってくれないかな?」と言った。店主は
「しかしこの猫も随分と可愛がっておりますので…」
と言うと男は、
「頼むよ、どうか、この通り。」
と頭を下げた。店主はついに折れ可愛がってあげてくださいと猫を男に譲った。
男は十万円払うと、
「そうだ、この猫のご飯の皿にさ、今使っているあの皿をもらって良いかな。いやいや、猫だって使い慣れている方が絶対嬉しいと思うんだよ。」
と言って皿を取ろうとした。だが店主は違う皿を出しながら、
「その皿は譲れないんです…すいませんがこちらの木のお皿でも良いでしょうか?こっちでもこの猫しっかり嬉しそうに食べますので。」
と、皿を守りながら言った。男はそう言われても今まで猫が使っていた皿に手を伸ばした。しかし店主は、
「お客様、申し訳ありませんがこちらは譲れないんです。お客様はご存知ないかもしれませんが、こちら高麗の梅鉢と言いまして普通に売っても百万円、コレクターなら五百万で売れる品なんでございます。どうかこの皿だけはご勘弁願います。」
と言って皿を守った。男は驚いた。この店主は全て知っていたのだ。すぐに男はこう尋ねた。
「何故そんな高価な皿で猫にご飯やってんだい。金庫かなんかにしまったけばいいじゃないか。」
すると店主は言った。
「お客様、その皿で猫にご飯をあげておりますとその猫が時々十万円で売れるんです。」
新現代版「猫の皿」 芝サカナ @343sakana
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