おやくそくな

「はあ?んなもんドアが開かねえんだからそりゃこっちから出るしかねーだろ」


 ナツキがそう悪態をつきながらエレベーターの方に歩み寄る。至極真っ当な意見だと思う。こちらの選択を伺うと言っておきながら、実際には選択肢は一つに思える。ナツキが押すと三角形のスイッチは点灯し、ドアがスライドして開いた。


「うわ…狭すぎだろこのエレベーター。部室のロッカーくらいか?2人も入れないぞこれ」


「ちょっとちょっと!話聞いてました!?だから資格を持った人しかこのエレベーターは…」


「はいはい。俺漢検なら二級持ってっから」


 声の制止を無視し、ナツキはエレベーターの中を覗き込む。


「ちょっと先に行って荷物取り返してくるわ。おい!今からそっち行くから首でも洗っとけよ!」


「ね、ねえナツキ…大丈夫?」


 チアキの心配にナツキが平気平気、と軽く手をひらひら振って応える。そのままエレベーターに乗り込み、自動ドアが閉まる。


「あれ…動かねーぞ」


 壁一枚隔てられたナツキの声が聞こえてかと思うと

 唐突にパンッ、と何か破裂音のような音がエレベーターから聞こえた。


 咄嗟に体が反応し、エレベーターに駆け寄る。


「ナツキ!おい開けろ!」


 猛烈に嫌な予感がした。急いでスイッチを連打し、ドアを再び開けようとした。スイッチに反応して再びドアがスライドする。


「あちゃー」


 エレベーターの中から首から上が消失したナツキの身体が倒れてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る