第14話 ミク、初めての出走③

鴨川シーワールドまでそこまで遠くない場所にある海沿いのコンビニ。ここが全体のコースの中間地点、折り返し地点でもあります。


「私の走りがどのように変わっていったのですか?」


気になります。私としてはとても乗りやすく、というかマーチさんと一緒に協力して走ってる感覚がとても強かったです。


「ミクは第1区間目でマーチが速くなったって言ってたじゃない?違うんだよ。ミクが速くなったんだ、結果的に。」


結果的に、ですか。そうかもしれませんが、なんでなのでしょう。自覚がない分もやもやします。


「ちょっと、早く教えてよ。気になるじゃない。」


メイコさんが月都さんを急かします。あれ?という表情でメイコさんに言います。


「メイコ、ミクが少しずつ速くなってるのわかってたんじゃない?だからペースも徐々に上げていったんだと思ったけど。」


ペースが徐々に上がっていったのは良くわかっていたのですが。


「そうよ。第二区間からはペースを落としたとはいえ、キッチリついてきたから驚いちゃったもの。最後の方は割と飛ばしてたわ。」


やはり。


「簡単に言うと、車の限界値が高くなったんだ。サスの仕様としては、フロントのバネレートを8kgf/mm、リヤを6 kgf/mmにして、ショックは‥純正形状だけど少し減衰力を調整できるのにしたんだ。初めてのチーム走行だし、減衰力は柔らかめにしたけどね。」


バネレート?減衰力?またもやよくわからない単語です。後で調べておきましょう。それにしても。


「第1区間で直ぐに今までのマーチさんと違うのはよく分かりましたが、ここまでとは思いませんでした。びっくりです。」


にやりと月都さん。嬉しそうです。


「足回り、つまり今回の変更点でいうと簡単に3点あるんだ。サスを硬くして車を安定させる。タイヤをネオバにしてグリップを上げる。ブレーキパッドはディクセルのコントロール重視のセミメタル製にしてコーナーに突っ込めるように。」


パーツのメーカーは俺の好みだけどね、と月都さんは笑いながら続けます。


「ミクのコーナーリング速度が速くなったのは後ろから見ててすぐに分かったよ。それより驚いたのが、コースを消化して行く毎にブレーキのポイントとアクセルを踏んで加速するポイントがどんどん変わって行ったんだ。」


そ、そうなのですか?気付かなかったです。メイコさんは真面目な表情で聞いています。


「ど、どのように変わっていったのですか?自覚まったく無いのですが‥。」


私が質問すると諭す様に教えて下さいました。


「ブレーキを踏むポイントがどんどん手前になっていったんだ。今まではブレーキを遅らせてコーナーに突っ込む運転だったんだけど、車のコーナーリングの限界値が上がったから自然とコーナーリング速度重視に、結果的にアクセルを踏むポイントが早く、立ち上がり重視の走り方に変わって行ったんだ。」


あー!と、メイコさんが納得した様に頷いきました。


「だから全開ではないにしろ、ストレートでもついてきたのかー!なるほどねー!」


私も目から鱗です。しかし車の話をしている時の月都さんは少し早口で楽しそうです。


「マーチさんの馬力が上がってる様な気にもなりました。内緒でターボ化したのかと思いましたよ、月都さん。」


その時、メイコさんの目が光ました。んん?


「そうだ!マーチをターボ化しちゃおうよ!私もシルビアをターボ化するかK'sに乗り換えちゃおうかなー♪」


パワーが欲しいメイコさんはターボという言葉に敏感に反応しました。メイコさんはなぜノンターボのシルビアに乗っているのでしょう。そのうち聞いてみましょう。


「まぁターボ化はしないとして。」


ばっさり月都さんがターボ化を却下して続けます。


「コーナーによって立ち上がり重視か、突っ込み重視か見極めて走るとまた走りが変わっていくよ。コースを覚えてきたら試してみて。」


ふぅむ、なるほど。まずはコース覚えなきゃ始まらないですね。練習あるのみです。ターボ化を却下されたメイコさんを横目に月都さんが提案します。


「次のデトロイトは俺が先頭で走るよ。ミクのペースは大体分かったから引っ張っていくね。」


了解ー、とメイコさんが返答し、休憩を挟んでデトロイトへ向かいます。



『ミク、無理しないで俺についてきてね。あと、シビックのブレーキランプをよく見てブレーキのタイミングを真似てみて。』


『了解です!』


ブレーキのポイントを真似る‥。今日走ったコースでも割とメイコさんのブレーキはよく見てましたし、大丈夫だと思います。コースを覚えて来ないと、前を走る車のラインとブレーキのタイミングが大事なことが良く分かりました。

あと、デトロイトは道が狭いので気をつけなければ。


シビックの右ウィンカーでスタートの合図を受けます。

スタート地点がトンネルなのでシビックの甲高いエンジン音が否応にもテンションを上げてきます。


アクセル全開でシビックについて行こうとしてるのですが‥んん?お、遅い?とりあえずブレーキのポイントを真似しま‥あれれ?シビックのブレーキランプが光りません。まぁこのくらいの速度ならエンジンの回転数あわせてブリッピングでついていけます。


『月都ー!遅いわよー!さっさと飛ばしなさいよー!』


メイコさんが最後尾で苛ついています。確かにこの速度は徐行と言ってもおかしくないです。


『メイコもマーチのブレーキタイミング真似てみれば?面白い発見あるかもよ。」


道が狭くて追い抜きができないデトロイトの前半戦、メイコさんは諦めた様にマーチとの詰めていた車間を空けました。


いったいどんな発見があるのでしょう‥。

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