第13話 ミク、初めての出走②
『こちら月都。ミク、次の分岐を右に曲がるよ。そのあと、少ししたら一つ目のコースに入るからね。』
月都さんの声がトランシーバーから聞こえます。つつつつついに始まります。
『みなさん、事故しないようにがんばりますー!』
かなり緊張しているのか、声が高くなってらしまいました。落ち着け、私。ふー。
『大丈夫ー♪ドライブみたいなペースだから安心してー♪』
事前にその事は何度も聞いているとはいえ、油断なりません。集中してメイコさんのシルビアのテールを見続けます。
「!!」
右ウィンカーが点滅しました。私もすぐに右ウィンカーを点滅させ、続いて月都さんのシビックも続けました。
その瞬間。
シルビアのマフラーから爆音が炸裂し、急加速して行きます。スタート地点のこのコースは、スピードの出る下りストレートから始まるみたいです。
あっという間に一つ目のコーナーを軽やかにクリアしていくシルビアを視界の先で捉えつつ、私も3速→2速へシフトチェンジしてクリアします。
練習したヒールアンドトゥはもう慣れたものです。
が、コーナー出口で見たものは緩い上りのストレート、かなり先の方に見えるシルビアがブレーキランプを少し光らせ視界から消えました。
ぜ、ぜったい、ドライブ〜♪みたいな速度域ではありません!面食らいましたが、集中してコースを可能な限り攻めます。こう言う時は焦らず目の前のことに集中!メイコさんは見えなくなりましたが‥。
ん?何個かコーナーを過ぎたあたりで違和感を感じました。明らかにコーナー途中の車の傾きが少ないです。その為か、一人で練習していた時よりなんか‥安心感があります。なんというか、車の動きが分かりやすいような、車との一体感があるというか。これは‥!楽しいです!ステアリングの反応もマーチさんが直ぐに応答してくれます!
マーチさんと会話をする様に走っていると、先方にシルビアのハザードランプが見えました。私も直ぐにハザードを点け、月都さんに知らせます。
『メイコー、何全力で走ってるんだよ。ドライブペースはどこ行ったんだ。』
月都さんがぶすーっとした声で言います。その通りです。ひどいです。メイコさんの弁明を聞きましょう。
『いやまぁ、なんていうの?初めてのチームに来ての洗礼?みたいな?てへへ。』
全く悪びれていないメイコさんは楽しそうです。でもそれより。それよりもマーチさんです!
『月都さん、何かよく分かりませんがマーチさんがすごいです!街乗りでは感じなかったのですが、明らかに速くなってます!』
ストレートの加速、コーナーリングの速度、全体的に速くなっている様に感じました。足回りを変えるだけでここまで劇的な変化が起きるものなのでしょうか。
『それは後で、小湊の海沿いのコンビニで詳しく話すよ。とりあえずメイコ、バックミラーからミクが見えなくなったらコーヒー奢りな。』
さらりとメイコさんに指示する月都さん、ありがとうございます。
『へーい、了解。んじゃミクちゃん、今度こそドライブね♪』
とと、ここを右折っと。道を、景色を覚えないと。
道を曲がるとシルビアの右ウィンカーが点滅します。第2区間スタートです。
-
『さて、前半の最後のコース、シルヘアよ。下まで降ったらそのままコンビニまで行くわよー。』
ふふ‥私の体力はもうゼロですよ‥。頭がボーっとして明らかに集中力が切れています。メイコさんについて行く事に必死で無我夢中で走ってきました。少しずつペースを上げて行くメイコさんの意思は分かりやすかったのですが、一つ前の区間は割といいペースだった様に思います。
最後の気力を振り絞ってシルビアヘアピンに向かいます。おそらくシルヘアまでで、第8か9区間くらいコースがあったと思いますが、これは体力と精神力が無いと正直キツいと感じました。コースの慣れもあるでしょうけど。
道が少しずつ狭くなり、車2台と半分くらいの幅になった辺りでスタートの右ウィンカーが点滅しました。
確か殆どが2速で行けるはずです!
アクセルを全開にして一つ目のコーナーに差し掛かりブレーキを踏んだ瞬間、マーチさんの後輪が滑りました。
「うわわっ!」
カウンターを当てて体制を整えようとし、ふらふらとなんとか体制を戻せました。
ドキドキ。
カウンターを当てるのは初めてな気がします。良くできたな、私。
とはいえ、驚きと恐怖で意気消沈しているとトランシーバーから月都さんの声が聞こえます。
『とっちらかっちゃったねー。とりあえずまだ序盤だけどこのまま徐行してコンビニまで行こっか。メイコ、それでいい?』
メイコさんもトランシーバーでオッケーと返答があり、このままコンビニへ向かいます。まだドキドキが治りません。もしかしたら事故をしていたかもしれないと思うと‥。
頭の中でぐるぐる悪いイメージばかり考えていたらコンビニに着きました。車を降りるとメイコさんが駆け寄ってきました。
「さっきスピンしちゃいそうになったの?怖かったでしょ。でもよくぶつけないで大丈夫だったわね。」
心配そうに私の顔を覗き込みます。きっと青ざめていたに違いありません。
「こ、怖かったですー。初めてスピンしそうになりましたー。」
泣きべそをかいていると月都さんも車から降りて来ました。
「最初のコーナーでハーフスピン気味になっちゃったね。ミク、シルヘアについた頃には結構ヘトヘトだったんじゃない?」
月都さんは割とあっけらかんとした表情で聞いてきます。
「そうなのです。実は頭がぼーっとしてて、気合いを入れ直したのですが‥。」
話していると怖いやら悔しいやら色々な感情が混ざってしまいます。
「多分、ブレーキをかけすぎた様に見えたかな。ただでさえシルヘアの序盤は勾配があるから、ブレーキ踏み過ぎて前に荷重が乗りすぎちゃうんだよね。それで軽くなったリヤが滑ってしまう。意図的にできればかなりの武器になるんだけど。」
荷重?うーん、よくわかりません。続けて月都さんが指摘してくれます。
「とにかく、まずは疲れたり万全の体調じゃなくなった時は教えて欲しいかな。慣れないうちは途中で教えてくれればペースダウンしたり、区間のコースをパスしたりできるし。」
なるほど。うんうんと頷いて聞いているとメイコさんが横から月都さんにちょっかいをだしてきました。
「後ろからミクちゃんの事見てたなら察してあげなさいよ。様子をみて月都がペース落とすように指示くれればよかったじゃない。」
あわわ、月都さんは悪くないです。
「いや、実はさ。」
月都さんから意外な事を言われました。
「ミクの走りが区間のコースを走り終える毎に良い方向に変わっていくんだよ。後ろから見てるこっちが楽しくなって止められなかったな。」
どどど、どういう事でしょう。
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