第5話 ミク、武者修行をする

土曜日深夜。

千葉県鹿野山のとある山道、2速・3速を使用することが多いコースに赤いマーチの姿があった。


「こ、ここだー!」


ギリギリまでブレーキを我慢してうまくコーナーを曲がれました!しかもちゃんとヒール&トゥができました。


ちなみにヒール&トゥは、ブレーキを右足で減速しながら、エンジン回転数が落ちてきたところでクラッチを切ってシフトダウン。クラッチを切ってる状態で右足カカトを使ってアクセルを吹かしてエンジン回転数をあげる。その後にクラッチを繋いぐ基本的な技らしいです。こうすることでニュートラルな状態を減らしてロスをなくすことができるみたいです。


よく考えたらこの操作って全身使うんですよね。右手はステアリング操作。左手はシフト操作。左足はクラッチ操作。右足はブレーキとアクセル操作。それをほぼ同時に操作する。

これができるまで、マーチさんとこの山に練習に来て3ヶ月もかかりました。初めはエンジン回転数が全然合わなくて、車がガックンガックンしてました。アンドロイドはマルチタスクが得意なはずなのに‥。でも、なんとなく走り屋っぽくなってきたような気がします。


なぜ走り屋の真似事みたいな事をしてるかというと、マーチさんを買ってもらった後、納車までの間に手続きで何度か『ガレージ浜野』に行ったのですが、前田さんに


「ミクさんと一緒にいた、月都さんでしたっけ?すごく車に詳しくてタジタジでしたよ。職業は整備士とかでしょうか。」


「いえ、システムエンジニアですよ。」


と答えると、うーん、首を傾げて考え込んでしまいました。


「もしかしたらモータースポーツとかされている人かもしれませんね。車を確認する内容がいかにもそっち方面の方でしたから。」 


確かに、月都さんのシビックは明らかに普通ではないのはわかりますが‥。


と、そのような会話を前田さんとしていたのです。それから気になって、月都さんのシビックのリアバンパーに貼ってあったステッカー『Team Rush』をGoogleで調べてみると、とてもシンプルですがホームページを見つけました。月都さんが所属しているのは、いわゆる峠を主体として車を走らせる、走り屋さんのチームだったのです。


そこから興味を持ってしまって、月都さんの見ている世界を見てみたいと思い、走り屋の真似事を始めました。マーチさんにたくさん乗りたい!というのもあったと思いますが。

恐らく、月都さんの部屋にあったバネやネジや鉄パイプみたいなものは車のパーツだったんですね。


月都さんが土曜日の夜、外出してから帰ってくるまでの間、この鹿野山に練習をしに来ていたのです。なぜこの山なのかは、Google mapで練習できそうな道を探して発見しました。でも、こんなこと黙ってやってるなんて月都さんが知ったら怒りますよね‥。そう思ってもやめられない魅力があります。ガソリン代がかかるので、商店街の喫茶店でアルバイトも始めました。もちろん月都さんにはオッケーをもらってます。


あ、もうこんな時間です。

時計は午前3時を少し過ぎたくらいでしたが、月都さんがおうちに帰ってくる前に帰らなきゃです。はやく帰ろっと。



「ミク、これからドライブ行かない?」


「え?」


翌週、土曜日の夜、月都さんから突然ドライブのお誘いでした。驚いた私はすっとんきょうな声をだしてしまいました。

いつもなら、これから外出されるお時間なんですけども‥


ちなみに先程月都さんに、車を持っていることを黙っていてごめんと謝られてしまいました。私も既に知っていたことを伝えて謝ると、2人でフフッてなっちゃいました。


「こ、これからですか?」


「うん。もしミクがよかったらなんだけど。」


月都さんとのドライブデートです!ひゃー!?どとどどどうしましょうー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る