第6話 ミク、異次元を体験する①
私のマーチの前に月都さんのシビックが走っています。後ろから見ると、ますますぼた餅みたいで可愛いです。
じゃなくて、ドライブデートだと思って助手席を期待してたのですが、まさかの二台でツーリングみたいな感じになりました。真夜中に。ま、まぁ、ぜんぜん楽しいからいいですけどね!
少し走ったところで食料品スーパー『せんどう』にシビックが右折信号を出して入って行きました。ここのスーパーは、マーチさんと良く来ます。お野菜が地元産で安いんですよね。
つられるように私もウィンカーをだして入りました。でも、この時間だとお店は閉まっていると思いますが‥。あ、やっぱり店の明かりが消えています。なんでここに来るんだろうと思っていると、月都さんの車が止まりました。すると、なにやらいかつい車が一台停まっています。そこから1人の男性が降りて来ました。
「よー、月都。今日は出走?」
軽い感じで月都さんに声をかけて来た男性は、爽やかなイケメンですが‥、私と同じボーカロイドですね。なんとなくわかります。
「今日は走るよ。カイトは?」
「もちろん出走!先週、足回り交換間に合わなくて走れなかったからね。」
どうやらカイトさんというお名前らしいです。会話の中に走るという単語がちらほら‥。まさか‥。
「ミク。こいつはカイト。っと、その前に‥きちんと言っておかないとな。」
月都さんは申し訳なさそうに、続けて言いました。
「ごめん、俺、走り屋のチームのリーダーやってるんだ。黙っててごめんな。あんまり心配させたくなくて。」
「あ、いえ、知ってました‥。すいません、実は車をお持ちな事も割と前から知っていて。車にステッカーが貼ってあって、それで調べて、チームのホームページ見つけて‥。」
辿々しく、言い訳がましく答えました。そしたら月都さんがニヤリ、と笑って、
「‥で、夜な夜な走りの練習してた‥?」
!?えっ!なんで知ってるんですか?!と、声にはだしませんでしたが、間違いなくこの世の終わりだー!みたいな顔をしていたと思います。どどどどどどうしよよぅぅ!
「ミクのマーチ、たまにメンテナンスしてたんだよ。それなりに走行距離行ってるからね。そしたらみるみるうちにタイヤが減っていくわ、ホイールにブレーキダストがこびりついてるわで。これは明らかに走り込んでる車の特長だよ。」
月都さんはなぜか楽しそうに、嬉しそうに話をしています。隣にいるカイトさんという方もニコニコしながら話を聞いています。
「そして極め付けは‥!フロントバンパーにこびりついている虫の跡!これは決定的だったね!春先から夏までに山で走ると、虫が車に当たって潰れた後が残るんだよなー。洗車がたいへんなんだよねー。」
月都さんはマーチさんのバンパーを指差ししながら、楽しそうに話しています。まさか黙って山で走り込んでいた事が知られていたなんて‥私、青ざめた顔で、ちょっと目に涙が溜まってしまいました。
「ご、ごめんなさい!勝手にこんなことして!もうなんて言ってよいか‥!」
それをいい終える前にはぶわっと泣いてしまいました。
「ミ、ミク!?」
「あーあー、女の子泣かせたー。月都ー、悪い男だねー。」
カイトさんは、ニヤニヤしながら軽く月都さんにを小突いています。月都さんはおろおろしながら私の頭をなでなでしながら、諭すように言いました。
「ミク。俺、本当はすごく嬉しいんだよ。まさか車に興味を持ってくれるなんて思ってもみなかった。正直、はじめは戸惑ったよ。こんなに危険な事、やめさせた方がいいんじゃないかって。俺がいうのもなんだけどな。」
と、頭をポリポリ掻きながら少し苦笑いをしていました。
「でも、それ以上に嬉しいよ。車が好きなだけじゃなくて、『走る』事を好きなことが。実は今日、ミクを連れて来たのは一度、俺のチームの走りを体験してもらいたいからなんだ。」
うんうん、と横でカイトさんが頷いています。
「はじめまして、ミクちゃん。話は月都から聞いてるよ。山で腕を磨くのはリスクを伴う。違法行為だしね。でもその中で、ルールを決める事でリスクを軽減させる、かつ一人で技術的に行き詰まった時に仲間が助言をできる。と、まぁ色々他にもあるけど、みんなで楽しくやった方がいいんじゃないって事を月都は伝えたい訳だよね?」
「お、おう‥。」
「相変わらずの口下手だなぁ。車のこと以外はからっきしなのはいつものことか。ははっ。」
カイトさんは軽いように見えてとてもお気遣いができる方のようです。とてもいい人ですぅぅぅ。うぇぇぇーん。
「どうかな?ミク。」
「ぜ、ぜひお願いしますうぇぇーん!」
私が泣きべそをかいている中、遠くからとても大きな音をした車が『スーパーせんどう』に入ってきます。こちらに向かってアクセル全開で走ってきます!うわぁーー!
キキー!
ハードブレーキングで車体を斜めにしながら止まった車は真っ赤な派手な車でした。し、死ぬかと思いましたよ。
「やっほー。こんばんは。あれ?今日はこれだけ?」
車から出てきた女性は少し派手な感じの‥ボーカロイドさんですね。この車はなんだろ?スポーツカーっぽいけど、少し前の車みたいですね。
「よー、メイコ。今日はスペシャルなゲストがいるよー!」
カイトさんがそう言って私の方を向きました。それと同時にメイコさんがこちらにササっと来て肩を組んできました。はわわっ。
「はーじめましてっ!私と同じボーカロイドだね。何?うちのチームに入りたいの?車は?」
ストレートかつ勢いのある言葉にタジタジですが、私はマーチさんを指差しました。
「マーチか!可愛いよねー。見た感じノーマルっぽいけど‥SR?どっかいじってんの?実はターボ化してたりとか?」
そこですかさず月都さんがフォローしてくれました。
「メイコ!ミクがびびってんだろ、もう少し落ち着いて話せよ。初対面で軽すぎなんだよな‥。」
「相変わらずうるさいわね。いいでしょ、これだから車オタの隠キャは困るのよねー。ミクちゃんもそう思うわよねー。」
「いえ、月都さんはとても頼りになる素敵な方です!」
はっ、何を言ってんだろ私。反射的に恥ずかしい事を言ってしまいましたはわわ。
「あらあら、少しいじめちゃったかしら。ごめんごめん、ミクちゃん可愛いからつい‥ね!改めて‥、私はメイコ。ボーカロイドよ。そこの赤い車、シルビアに乗ってるわ。よろしくね!」
メイコさんは少し姉御肌っぽい感じでとてもいい人そうなのに少しいじわるです。それにしてもメイコさんのシルビア、私のマーチと同じ色です。エアロが付いているせいかカッコいいです。
「カイトは今日走るのかしら。先週は散々煽られまくったからムカついてるのよね。その下品なランエボ、叩きのめしてくれるわ。」
ふふん、とメイコさんはカイトさんを見下しながら煽ります。
「でもノンターボのQ'sでよくやってると思うよ。昔より随分うまくなってるよ、メイコは。」
「キー!なによ!この上から目線のセリフは!月都も早く行くわよ!」
メイコさんブチギレですね。見ててとても面白い方です。カイトさんもナチュラルに煽ってるのがとても効いてます。
「了解。ミク、マーチはここに停めておいて俺の助手席に乗ってくれ。まずは俺たちのチームがどんな感じの走りをするのか見てもらいたいんだ。」
「わ、わかりました。よろしくお願いします。」
月都さんが真面目な表情でそのように言いました。私は、自分以外の車に乗ったことがないのでとても楽しみです。しかも月都さんのシビックなら尚更です。緊張しますけど‥それ以上に、わくわくさんです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます