第4話 ミク、車を買う

「マーチさん、可愛かったな‥」


中古車屋さんからの帰り道、つい呟いてしまいました。

私、そもそも運転できないと思ってたのですが、中古車屋さんの前田さんに調べてもらったところ、既に運転できるそうです。私には運転するためのソフトと、運転免許と同等の証明書がインストールされていたそうです。おそらく、私の所有者の方が設定されたのでは、と仰っていました。月都さんが設定してくれたってことですよね‥。でもなんででしょうか。マーチさんの事と運転免許の事を考えていたら、頭がなんだかぐるんぐるんしてきました。


おうちに戻ると、月都さんがちょうど起きてきました。


「おはよう。買い物に行ってたの?」


「は、はい!お魚屋さんに行ってました!」


中古車屋さんに行ったことは言わなくてもいいですよね。ね。見学だけでしたし‥。


朝ごはんの準備している時に、月都さんが私に言いました。


「今日でミクと生活を始めてちょうど1ヶ月になるんだ。家事を手伝ってくれたお礼と記念に、何かプレゼントしたいと思うんだけど、欲しいものとかあったりする?」


私は脊髄反射で答えていました。


「赤い車のマーチさんが欲しいです。」


言った瞬間に口を押さえました。さっきからマーチさんの事ばかり考えていたのでつい口に出てしまいました。


「マーチ‥?車のマーチの事?」


あぁ、言うつもり無かったのに‥。いきなり欲しいものが車とか、迷惑すぎます‥!あぁもうどうしたら‥!


「車があると買い物のまとめ買いとかしやすいし、いいかもね。できれば中古車とかだと助かるけど。それでよければ大丈夫だよ。」


「ほ、ほんとうですか!月都さん、いいんですか!?」


まさかの展開に嬉しすぎて少し泣いちゃいました。


「それにしても赤い車のマーチって、具体的だけどもう目星ついていたりする?」


もう隠し事しても意味が無いと思ったので、中古屋さんに見学に行ったこと、赤いマーチさんを気に入った事を伝えました。


「3代目のマーチ。K12かな。うん、とても良い車だよ。デザインも当時は凄く珍しくて可愛い見た目なんだよね。」


「そうなんです!あのまんまるとした愛らしいライン、お目々ぱっちりな感じ‥たまらないです!」


ちょっと勢いありすぎる私の言葉と恍惚の表情に、月都さんはすこし戸惑ってるようです。申し訳ないです。


「女性をターゲットにした車だったし、いいと思うよ。ミクは車の運転をできるように既に登録しているから、車を買ったらすぐ使えるよ。」


と、ニコニコしながら私に言いました。なんで、免許の登録をしてくれてたのか気にはなっていましたが、今はそれよりマーチさんの事です!と、はやる気持ちを抑えれずにいると月都さんが


「ご飯食べ終わったらマーチを見に行こうか。車の状態も見てみたいし。」


!?


「あ、ありがとうございます!すぐご飯を作ります!待っててくださいね!」


凄い勢いで料理を始める私。もちろん洗濯物を干すことも同時並行で行います。マルチタスクが得意なのはアンドロイドの特徴の1つです。



「ここが『ガレージ浜野』か。商店街の端っこにこんなとこあったんだ。中古車販売とパーツ取り付け‥。ちょっとしたことなら車いじってくれる感じなのかなぁ。」


月都さんを中古車屋さんに案内すると、少し楽しそうに店内を見回しています。すると、前田さんがお店の奥から顔をみせてきました。


「すみません、ただいま接客中ですので少々お待ち下さい。」


前田さんは忙しそうです。日曜日ですしね。私はというと、ずっとマーチさんの方ばかり見ています。それに気づいた月都さんは


「このマーチが気に入ってるの?」


「はい‥。」


ボーッとマーチさんを見ている私を横に、車の状態を確認し始める月都さん。しゃがんだり、覗き込んだりして色々確認してくれています。


「お待たせいたしました、お客様。っと、ミクさんじゃないですか。先程はお時間いただきありがとうございました。そちらは‥。」


「とりあえず、ボンネット開けてもらってもいいですか?それとエンジンかけていただけますか?」


他の箇所を点検しながら月都さんが前田さんにいいました。月都さん、人が変わったように集中しています。


「わ、わかりました。少々お待ち下さい。」



あれから月都さんの確認が終わるのに約1時間くらいかかりました。事故歴があったようで、そのダメージの具合を確認するのに時間がかかったようです。 


「うん。事故歴ありだけど、リヤのトランクフロアの横の部分が多少曲がったみたいだけど、綺麗に修復されてる。足回りには影響なさそう。リヤタワーバーとかあったら反対側まで衝撃がいってたかもしれないけど。これなら仮に少し歪んでても走行には問題ないよ。」


と、またよくわからない単語が出てきてわからないですが、なんだか月都さんが楽しそうです。


「お、お客様。確認は以上でよろしいでしょうか。」


前田さんが確認の時にずっと月都さんの質問攻めにあっていたためか、疲弊度がMAXですね。大丈夫でしょうか。


「よし。前田さん、このマーチ買います。所有者はミク名義でお願いします。で、いいかな?ミク。」


ニッと笑いながら私に言いました。 

つ、つきとさーん!!


「ありがとうございます!ずっと‥、ずっと大切にします!」


そしてマーチさん、これからよろしくお願いします。ボンネットをなでなでしながら、そう話しかけていました。

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