第3話 ミク、出会う
チュンチュン。
朝、鳥の声で起きた私は隣の部屋を見ると、よく寝ている月都さんを見て少し安心しました。
さてと、朝ごはん‥は、いらないですね。月都さんが起きてくるのは大体お昼過ぎくらいでしょうか。洗濯機を回して、買い物をしに商店街にいこっと。
家事を鼻歌交じりに終え、商店街へ買い物をしに向かいました。
と、いつも通り駅前に向かうと商店街なのですが‥
ちょっとだけ寄り道です。あの白い車を見に行ってみます。
昨日の夜から気になって仕方がありませんでした。
駅に向かう反対の道を進み、駐車場につきました。
ありました。あの車です。
見間違う事はないです。昨日は真っ白の車に見えたのですが、ボンネットが黒いです。なんででしょう。
それに、車高が低く、車の中を覗くと‥なんだかがらんどうです。前の座席2つ以外は鉄板剥き出し。さらにはジャングルジムみたいな鉄の棒が張り巡らされています。広さで言えば後ろの席がありそうな車なのに2人乗りですね、この車。
もう一度くるりと車の周りを一周してみます。車の後ろに『H』の赤いエンブレム。『CIVIC TYPE R』の文字。
しびっくって読むのでしょうか。車の形がハッチバックだからなのか、後ろから見るとぼた餅みたいで可愛いです。
そして、『Team Rush』と書いてあるステッカーが貼ってありました。
‥‥一通り見て満足しました。やっぱりドキドキしっぱなしです。よくわかりました。きっと私、車が好きなんだと思います。でも、この駐車場にある他の車を見てもあまりドキドキしません。月都さんの車だから?わかりません。
とりあえず、後ろ髪を引かれる思いでお買い物をしに商店街へ向かいました。
-
「ミクちゃん!それはホンダの車だよ!」
そう威勢よく教えてくれているのは、お魚屋さんの田中さんのご主人です。お魚を買う時に、月都さんの白い車の話をするとそう答えてくれました。
「ホンダさんの車なんですね。ということは月都さんは車を借りていたんですね。」
「違う違う。ホンダっていう車のメーカーのことだよ。『H』のエンブレムはホンダ車の証拠よ!良いメーカーだよー!」
ホンダというメーカーがあるんですね。勉強になります。あ、それと
「おじさん。車に『TYPE R』って書いてあったんですよ。」
「『TYPE R』かー!あれは速いぞ!なんといってもホンダの可変バルブタイミング機構で有名なVTECってエンジンが乗っててな。速いんだ、あれ!」
なんだかよくわからない単語が出てきているので、とりあえずメモっておきます。後で調べてみよっと。
「なんだい、ミクちゃんも車に興味あるのかい?おじさんも若い頃は‥‥」
その後も、田中さんの車トークを沢山聞かせていただきました。車って言っても色々あるんですね。まだよくわからないことが沢山ありますけど。
「もし車に興味があるなら、商店街の外れにある中古車屋見てみればいいよ!俺の紹介でって言えば安くしてもらえるはずだ。もし安くしなかったら俺に言ってくれ。あいつぶっとばしてやっからよ!」
何やら物騒な事を仰っておりますが‥。でも、私には車は買えません。お金もないですけど、月都さんには迷惑かけたくないです。そもそも運転できませんし。
そんな事を考えていると少し暗い気持ちになってしまいました。お魚屋さんでお買い物を終えた時、
「おっ!噂をすれば‥よぅ、久しぶりじゃねぇか!前田!」
ビクッとお店の向かいの道を歩いていた細身のスーツ姿の男性がこちらを見ました。
「お、お久しぶりです田中さん。では‥」
なにやら危険を察知したようで、そそくさと退散しようとしています。
「おーい!待てよ!逃げんなよ!ちょっとこっち来い!お前のお客さんだぞ!」
その瞬間、前田さんという方のメガネがキラリと光ったように見えました。え?お客さん?
「はじめまして。中古車ショップをやらさせていただいております前田と申します。」
名刺をサッと渡されました。カーアドバイザーと記載されています。
「もしお時間があるようでしたら、見るだけで結構ですのでいかがですか?」
うーん。月都さんが起きるにはまだ早い時間ですし、大丈夫でしょうか。正直、興味はあります。
「はじめまして。初音ミクと申します。あの、お、お金はないですけどいいですか?」
「大丈夫ですよ!見学だけでも!」
前田さんはニコニコしていて悪そうな人じゃなさそうです。ここは‥
「ぜひ、お店を見させてください。」
「よっしゃ!前田よ、丁寧に案内してやれよ。ミクちゃんもこいつがテキトーなことしてたら後で教えてくれよな。」
前田さんがひぃぃって言ってます。大丈夫ですか?
「で、ではこちらへ‥」
憔悴した前田さんについていきます。田中さんとはどんな関係なんだろう。あ、もう着きました。商店街の端っこにこんなところがあったんですね。
「いらっしゃいませ、ここが私の店『ガレージ浜野』です。」
そこには沢山の車が綺麗に並べてあります。色とりどりのたくさんの種類の車。少しワクワクしてきました。でも、なんで前田さんなのにお店の名前が浜野なんでしょう。前田さんに聞いてみたら、あまり意味はないそうです。
「少し見させていただいてもいいですか?」
「どうぞ。気になる車があったら声をかけてください。その辺におりますので‥」
ありがとう、と声をかけてお店の中をぐるぐる見て回ります。んー。楽しいんですけど、月都さんの車を見た時のドキドキにはなりません。なんでだろ。
その時、視界の端っこに赤い車が見えました。
ドクン。
‥〜力が欲しいか〜‥
‥とは聞こえませんが、あの時、月都さんの車を見た時と同じ感覚‥!駆け足で赤い車のところに向かいます。
その車は、赤く、丸く、お目々がぱっちりしていて可愛い車でした。そんなに大きくない車体の為か、運転しやすそうな感じがしました。いや、運転できないんですけれども。
じっと赤い車を眺めている私を見たのか、前田さんがこちらへ来て話しかけてきました。
「こちらの車は、『ニッサン マーチ』。自動車メーカー日産が誇るコンパクトカーです。マーチとしては3代目になりますが、かの有名なカルロス・ゴーン氏が手掛けた‥」
前田さんが説明をされている中、ずっとこの車、マーチに釘付けでした。マーチさん‥可愛くてたまらないです。
時間を忘れそうになるほど見入っている私なのでした。
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