八月某日 月曜日 午前十一時 ②

「まず、婚約者の大川くん。それに、鍾乳洞の売店にいつも野菜を運んでくる、本田くん。また、鍾乳洞にアルバイトとして東子自身が引き入れた里美くん。この三人辺りなら、二人で会っていたとしても、誰も不思議に思わないだろう」

 神主は満足気にそう言いながらも、最後の彼は高校生だからと言いかけて、「だが、一番多感な時期でもある。何か思いつめて大きな事を起こしたとしてもおかしくないだろう」と、彼を軽視する発言があり、雪上は淋しくそして苛立ちを覚えた。

「では、可能性がある人が、東子さんを殺害する動機とアリバイがあるかどうか確認していきましょう。これは私が直接皆さんに話を聞いた印象になりますが――まず、大川さん。歓迎会の後家に戻り、一休みされそのまま、車でご実家に帰られたと聞いています。その帰られた理由が、大川さんのご家族に東子さんを紹介するためだったと。婚約まで決めた順風満帆のお二人が、その一方を殺害する可能性があるでしょうか。次に、本田さん。歓迎会の後、鍾乳洞の前の庭園で東子さんと会って、尚且つ東子さんが婚約をされたことで口喧嘩をしたことを本人から聞きました。」

 九曜がそこで話を切ると、神主はほら見たものかと小さな声で言ったが、その声は九曜が話を続けたのでかき消された。

「しかし、本田さんは犯人ではありません。確かに東子さんを慕っていた気持ちはあるでしょう。でもそれ以上に彼は自身の家族を養い、仕事をやらなければならなかった。だから、そこまでの踏ん切りはつかなかったと思います。彼には沢山のしがらみがありましたから。それに、本田さんの後に東子さんに会っている人物があります」

「それは……」と、神主は一瞬息を飲む。

「里美くんです」

 九曜の言葉を聞き、こわばらせた表情を氷解させやはり。と、神主は呆れ、ため息をつく。

「あの子は悪い子ではない。逆に良い子すぎる。心の中にため込んだ感情をいつか爆発させるのではないかと、いつも不安に思っていた。それに彼にはそれをコントロールしてくれるしっかりとした保護者もいないだろうから」

 神主がそう呟くのを無視しながら、九曜は淡々と話を続ける。

「そうは仰いますが、里美くんが東子さんと言い合いになった可能性は低いと思われます。二人が話していた内容は北華さんと里美くんの二人の関係についてのものでしたから。それで東子さんと里美くんが仲違いすることはないでしょう。それに、彼は東子さんについて非常に恩を感じている様子でした。確かに精神的に不安定な部分があるかもしれません。しかしそれはあの年代には、皆々あることでしょうし。それにそういった時代は誰にでもあるものです。ですから、それが悪いとは一概には言えないでしょう。ですよね、教授」

 急に話を振られ、驚いた様子であったものの、ふとこちらを向き、三人を見回すと、表情朗らかにフムフムと頷く。本当に教授が話を聞いていたかどうかについては眉唾物であるが。

「しかし、生前の東子と最後にあったのが、彼、里美くんならば彼が娘の死に関わっている可能性が一番高いのではないか? それに、里美くんが計画的に東子に約束を取り付けたという可能性もあるのでは?」

 神主は難癖をつける様なもの言いで、妙に里美にこだわった。

「それはありません。実際に東子さんから里美くんに送られてきたメッセージの文面を確認しました。それに、彼が最後ではありません。その後に東子さんに会った人物があります」

「それは?」

 九曜の言葉に神主よりも前に雪上がそう聞いた。

「もちろんそれが犯人です」

 はんにん――雪上はその言葉を心の中で唱える。まさか、と思いながらもやっぱりと言う気持ちがある。二つの相反する気持ちがせめぎ合っていた。九曜がうろうろと部屋の中を歩き回りながら、話を再開する。

「その犯人について、東子さんの事件があった時点で”犯人の条件”について私はこう考えました。


 1、歓迎会から十時よりも前に帰った。もしくはそもそも参加していなかった人物。

 これについては辺り前ですが、東子さんの死亡推定時刻である十一時半ごろにに鍾乳洞に行く必要がありますから。

 

 2、鍾乳洞のついて詳しい人物。

 私は、なぜ東子さんが鍾乳洞の中で発見されたか。これがずっと疑問でした。

 殺害されてから、鍾乳洞の中に運び込まれたということは考えにくい。じゃあ、自分自身で鍾乳洞の中に入ったということだけれど、なぜ、真夜中に鍾乳洞のなかにわざわざ自分から入ったのか。……」

「運び込まれた可能性は十分考えられるのではないか?」

 神主は腕組をして、そう言った。

「ご存知の通り、鍾乳洞内の遊歩道は道が狭く、天井も所々、かがまなければ通れないほど低い部分があります。まず、大の大人一人でも女性を抱えて、運ぶのは無理でしょう」

「数人がかりで、と言う可能性は?」

 雪上は単純にそう閃いて口にした。

「犯人が数人いる場合、逆に鍾乳洞に死体を運ぶメリットがない。隠したかったならば、どこか山中に運べばいい話だし。それに、先ほども言ったが、東子さんの遺体には争った形跡が一切ない。数人がかりで襲ったならば、流石に、痕跡があるでしょう。なので東子さんが自分から鍾乳洞に入ったのだと思われます。なぜ、鍾乳洞に入ったかと言うことですが、最初は何かから逃げるために入ったのだと考えていました。もしかしたら、東子さんは鍾乳洞の中の抜け道を見つけ、そこに逃げ込むために。小さいころから鍾乳洞に慣れ親しんでいると伺いましたので、多少暗いことは問題にならなかった。スマホのライトを活用したのかもしれませんし」

 東子が倒れているのを発見した時に、彼女の傍らにスマホが転がっていたのを思い出す。

「ですが、大川さんや色々な方の話を聞いて、そもそも抜け道なんてものはやはりなかったのだと思いました。ですから、東子さんが鍾乳洞に入ったの逃げるためではなく、別の理由があると」

 雪上は九曜の言葉に頷く。神主も何も言わないところを見ると、九曜の意見に反論はないようだ。

「まあ、話が一部脱線しましたが、様々な観点からから自分なり考えてはみて、東子さんが亡くなった時点では、犯人に対して確信を持てずにいました。しかし、北華さんが亡くなった事で、犯人が浮き彫りとなりました。……もうその人しか犯人が考えられないからです」

「それで、君が確信する犯人とは一体誰のことだ?」

「貴方です。神主さん」

 九曜の鋭い視線。雪上と教授すらもふっと顔ををあげ、その視線は神主へ向けらた。

 神主は一瞬驚いた表情を見せ、その後わなわなと体を震わせる。

「一体、何を言い出すかと思えば……君は自分が何を言っているのかわかっているのか?」

 怒号が部屋に響き渡る。九曜は一歩も引かず、真直ぐに神主を見据えていた。

「ここからは、私の推測でありますが……」

 九曜はそう前置きして、一瞬、天を仰いだあと、そのまま立ちすくむ。口を開いた。

「歓迎会の後、徒歩で来た貴方は、九時ごろ一度家に帰り、車に乗って鍾乳洞に向かった。神主さん、貴方は東子さんに呼び出されませんでしたか? 歓迎会の時に耳打ちされたのでしょう。時間は午後十一時ごろでしょうか。遅い時間だったのも東子さんの指定だったのだろうと。まだ、誰にも知られたくないことだから、人目につかない様に。東子さんと貴方は待ち合わせしていることなどはおくびにも出さずに、逆に歓迎会では一緒にいることを避けた」

「なぜ、東子さんはそんな時間に神主さんを呼び出したのです? 二人で秘密裏になにか話したいことがあったのなら、わざわざそんなことをしなくてもいつでもできたのではありませんか?」

 雪上の問いに話を切った九曜はこくりと頷く。

「二人で話をしたい。と、言うよりも鍾乳洞に用事があった」

「鍾乳洞に?」

 神主は無表情に九曜を見つめている。雪上の横目にうつった。

「東子さんは雪上くんにこう話していました。『びっくりするようなことがある』と。彼女が亡くなってしまった今となっては、本当は何を雪上くんに言わんとしていたのか、わからないと言わざるを得ませんが、恐らく、東子さんは鍾乳洞に隠された抜け道を痕跡を見つけたのです。神主さんには……今更、多分説明は不要かと思いますが、念のため申し上げますと、鍾乳洞に生贄として追いやられた少女たちは、その隠された抜け道を通じて、隣町に逃げたのではないかと考えられます。それは、隣町に龍の住処を通り抜けた少女たちに関する民話が残っているを知りまして。私達もここに来るまで知らなかったので、その話を聞いて驚いたのです。

 東子さんは、幼いころから今は使われなくなった資料などが置かれた、二階の部屋によく入り浸っていたという話を聞きました。そのことから、早い段階で、抜け道があるのではないかと言うことを知ったのだと思います。もしくはなんとなくその場所にアタリをつけて知っていたか。それで、今回私達が来るのをきっかけに、探してみるとその痕跡を見つけた。それを私達に話してもいいかどうかまず神主さん。貴方に確認をする必要があった。それで、実際にその場所を貴方に見てもらおうと」

「それで、あの時間に?」

 雪上の言葉に九曜が「恐らく」と言ったのと同時に、

「そうだ」

 岩が動く。低い声が地鳴りの様に響く。神主が顔を上げた。

「確かにそれについては認めよう。しかし、私は実は……行かなかったのだ。行こうと思ったのだが、家に帰って来てそのまま眠ってしまい……結局行くことが出来なかった。もし、あの時行っていればと思うと」

 神主はぐっと唇をかみしめる。

「そう言いますが、私は貴方が行ったのだと確信しています」

 九曜は強い口調でそう言ったが、神主はそれについて何も答えなかった。感情の含んでいない瞳をただふと持ち上げまた、どこかに彷徨わせただけで。

「話を続けます。……貴方は約束の時間よりもかなり早く鍾乳洞に着いた。何をしたかというと、まず、凶器を探しました。彼女を殴るための凶器、手ごろな石を探した。そして、社務所の鍵を開けた――これは、外部の人間がいたと思わせるためです。それから、石を持って一旦車に戻り、鍾乳洞を超えた先の山道で時間を潰した。それから約束の時間になると、車を引き返し、凶器の石を持って鍾乳洞の入り口の待ち合わせの場所に向かった」

「私はそんなことはしていないが……ですが、それは流石にオカシイと思わないか? わざわざ凶器をわかりやすく持って行く犯罪者がいると?」

 神主は瞳に意識が戻り、九曜にそう反論した。

「そりゃ、そうです。それにまさか自分の父親に殺されるなんて普通は思いませんから。まあ、そんな抱えこむほどの石を持って行っても不審がられると思いますが――例えば、石を持っていた時、こう言ったならどうです? 『鍾乳洞までのアプローチの部分に転がっていて、自分も転びそうになった。危険なので、こちらの方に持って来た』などと言えば、東子さんは納得するのではないでしょうか。むしろ、そんな危機に気が付かなかった自分を責めるかもしれません。

 それからどうなったか。

 神主さん。貴方は、電気をつけてくるから先に鍾乳洞の中に入って来るように言って、東子さんを中に追いやった。電気を本当に点けたかどうかはわかりません。恐らくつけるフリをして何等かのトラブルがあってつかなかった。代わりに大きな懐中電灯を持って、中に入り東子さんに追いついたかもしれません。もちろんその時に拾って来た石は小脇に抱えて。暗い中で強い光を見ると、目がくらんで、貴方が石をもって中に入って来たことに東子さんは気が付かなかったでしょうから。もしくは、よっぽど注視しなければ。でもその時の彼女は、宝箱のありかを教える様なわくわくとした気分でいたのではないかと思います。だから、その一歩一歩が自身の”死”へのカウントダウンであるなんて、皮肉なことですが考えもしなかったでしょうから」

 九曜の話の通りであるとしなたら、雪上達に鍾乳洞の秘密の抜け道を教えてくれるために、先ず神主に話すのが筋であろうと考えた東子。昼間は観光客がおり、早朝は神社の細やかな仕事があるし、受付の田川も朝早くに来てしまう。そう考えるとその時間しかなかったのだ。

 雪上達が来なければこんな事にはならなかったのだろうか。そんな考えも全てが今更である。

「犯行を駆り立てたのは、東子さんの”婚約した”と言う発言ですね」

 神主は意図していなかったのだろう。体がピクリと反応し、その反応した自分に対して驚いた様子を見せていた。

「貴方はお金に困っていた。神社は全盛期から見て、全くふるわない。唯一の収入源であった、鍾乳洞の入場料も維持費の方がかさんでしまい、現在では経営にかんするほとんどが役場に取られてしまっている。こんな状態で、一体これからどうやって生活していくか、それが死活問題だったのではありませんか? ですが、彼女が――東子さんが亡くなってしまえば、まとまったお金が手元に入って来る」

 北華の言葉を思い出した――お姉のためにも行かなきゃいけない。大学の費用は全部お姉がだしてくれているの。せっかくしてくれたことを無碍には出来ない。

 夏休みであるのに、無理矢理にでも大学に行って、必死に勉強していた。お姉さんである東子に全て頼って、大学へ行った引け目からか、何か結果を出さなければと彼女なりに必死だったのだろうと。

 北華の大学の費用を、自分の娘である東子に頼っていた。つまり……。

「東子さんの事情を深くは知りません。本人からも特別聞いていませんし、これからも深く首を突っ込んで知りたいとは考えておりません。ですが、一度は結婚され、様々な事情から、夫を亡くし未亡人になった。多くの苦労をされてきた方なのだとお見受けしました。ですが、その対価――と言う言葉が適切かどうかは、わかりませんが、幸いにも亡くなった夫が多くの遺産を残し、東子さんの手に渡った。神主を含めた西片家の皆さんは、生活のほぼ全てを東子さんに依存していた。その状態で東子さんが結婚したら? 今まで自分達が受けていた恩恵は別の所に流れてしまうかもしれない。もし子供が出来たら、特にそうでしょう。そうした時に自分は……何よりもこの歴史ある瀧神社の神主である自分が、娘にお金を無心していたと思われるのは、死んでも絶対に嫌だと思われる程。プライドもあったと思います」

 神主はもう何も言わなかった。ただ、微動だにせず床の、畳のふとを見つめ、口を一文字に固く結んでいる。

 大川から聞いた、『反応をみたい人がいる』それは神主のことを指していたのではないかと、雪上はふと思った。

「九曜くん。君が先ほど言った、『社務所の鍵を開けて、外部の人間だと思わせたかった』というのは一体?」

 珍しく、教授が口を挟み、九曜は頷く。

「本当は、最初に考えていた貴方の計画では、何者かが、神主さんと東子さんを間違えて殺害した様に見せたかった。現にあの日。東子さんからの呼び出しについては二人で隠されていましたが、戸締りのチェックに関しては交代していましたね。むしろ、人が聞いてわかる様に。たまたま、空気を読んで、東子さんが自ら交代を申し出てくれていましたが、もしそうならなければ、体調が悪いからと神主さんから東子さんにあの場で言おうと考えていたのでしょう」

「その、神主さんと間違えてとは、それは一体どういった意味です?」

 雪上は思わず口をついた。

「覚えていませんか? 我々が初日に来た時の事を。キッチンの土間で神主さんが何者かに襲われた時の事を」

「……」

 神主が土間に倒れ、花器が割れている。その時の光景を思い出す。

「それから、歓迎会の後、社務所の鍵が開いていた事。あれは、どちらも神主さん。貴方自身が引き起こしたことですよね?」

 九曜は神主の方を見たが、神主は何も答えない。無言は肯定を意味するのか。只少しだけ、バツの悪いのか顔を曇らせた気がする。

「自作自演。と言うことですか?」

 雪上の言葉に頷いたのは、神主ではなく九曜である。

「あの時、気になっていたのは、貴方が誰に襲われたということよりも東子さんの態度でした。自分の父親が命の危機にさらされたというのに、それにしてもあまりにも冷ややかだと。東子さん自身の性格なのかと思いましたが、彼女は他者を思いやる優しい人です。それは里美くんの一件で誰もが知っています。ですから、もしかしたらあの時。東子さんは神主さんが自作自演で行ったことだと何となく気が付いていたのではないかとふと思ったのです。もしかしたら、花器が壊れたことで、金額の請求をお願いされるのではと、考えていたのかもしれません」

 雪上はこの時、あの一瞬、感じていた違和感の正体に気がついた。

 確かに倒れている神主に対して、東子は気遣いを見せていた。しかし、彼女の口から警察へ連絡するという単語は無かったし、気遣ったのは倒れていたその時だけで、それ以降、神主の体調を特別気遣う様子はなかった。

 九曜が言った様にあまりにも冷ややかだった。

「しかし、事態は神主さんが思っていたのとは別の方向へ進んで行きます。警察は東子さんの死について事故死の可能性を強く示唆し、町の人達は、蒼龍様の怒りではないかと、畏怖を感じていた。そこで貴方は考えます。今更、自身の身代わりで殺されたと話をするよりは、このまま流れに身を委ねた方が、得策ではないかと。しかし、一人だけ東子さんの死に対して、神主さん。貴方が関わっているのではないかと疑問を抱いた人物がいます。それが……亡くなった北華さんです。この様なことを申し上げるのはとても心苦しいのですが、あの時北華さんは本当に自分でつまずいたのですか? 本当は貴方が後ろから押したのでは?」

 九曜の言葉にぎょっとして神主を見る。貝の様に口を閉ざし、石の様にぴくりとも動かない。

「亡くなる前日。私と雪上くんは北華さんに会っています。彼女は東子さんの死に関して何か心辺りがある様な素振りを見せていました。それが何なのか聞きましたが、その時の彼女はまだ自分の胸の内は誰にも話せない。一日待って欲しいとそう言われ……待った結果がこれでした」

 九曜はこの時初めて悔しさをにじませる。もしかしたら、北華の死は防げたかもしれない。北華が亡くなったと、聞いた時、雪上だってそう同じ様に感じた。しかし、結局彼女の命を救う事も出来なかった。

「居酒屋よしの、二階の席に居た彼女は途中で、神主さん。貴方を呼んだ。そこで話をした内容は、最初に貴方が説明した民話の生贄の事ではなく、本当は東子さんが亡くなった日、夜中に出かけて帰って来た貴方を目撃していた北華さんから問い詰められていたんだ。どこに行って何をしていたのかと。貴方は適当にのらりくらり話を交わしたのだろうが、北華さんの疑念は晴れることがなかった。本当は殺しなんてするつもりはなかったと信じています。しかし、それと同時にこのままではまずいこともよく知っていた。どうにかしなければとも。階段を下りる北華さんの後ろ姿に。もしかしたら本当にその時、足がよろめいたのかもしれません。――魔がさした。気が付くと北華さんの背中を……」

「やめてくれ」

 大きな声で神主が叫ぶ。ピタリと九曜は話を止めた。

 神主は頭を手でつかみ震えていたが、次第に体の力が抜けたようにだらりと口を開け、手を下げた。

「これ以上は長居はいたしません」

 そう言ったのは教授だ。立ち上がり、神主の隣に来ると、しゃがみこんだ。

「今のは話は全て九曜くんの推測での話ですが、私も聞いていて、もしかしたらそうだったのかもしれないと。そう思っています。もし、貴方が何か心辺りがあるのであれば、自首をお勧め致します。考える時間も必要かもしれません。九曜くんと雪上くんは、来月にまた伺いますので、その時までに答えを教えて下さい。ですが、我々が知っている事実は事件解決のために、しかるべき部署に話を通します」

 

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