第EX3葬儀 上
「全く、たまったもんじゃないぜ……」
やや色黒の肌をした中肉中背の礼服を着た男は、葬儀屋付近のジュースの自動販売機のゴミ箱を蹴飛ばした。
ガシャン。
劣化し脆くなったプラスチックのゴミ箱は、数十センチ蹴り飛ばされ音を立てて倒れた。
建物の角から小柄な男性が近づいてくる。
「荒れてるねぇーー中村」
そう言って声を掛けて来たのは、同じバンド【
「ンだよ。荒井か……あいつはもうバンドメンバーでも何でもない! なんでそんな奴のために香典費含めて10万近い出費をしなくちゃならないんだ!」
手に持ったコーヒーのアルミ缶がギ、ュッと握りしめられてベッコりと凹んだ。
メジャーデビューが決まったとは言え。以前メンバーの財政状況が改善したわけでも何でもない。皆バイトや仕事、それぞれの生活を掛け持ちしながらバンド活動をしているのだ。
「まぁ、確かにアイツはもうウチのバンドのメンバーじゃないけど、俺にとっては友人の一人だし……中村にとっても高校時代からのバンドメンバーじゃないか?」
そう言いながら荒井は胸ポケットから煙草を取り出して、中村に一本差し出した。
中村は煙草を奪うように受け取ると、金属製のケースのオイルライターで煙草に火をつけた。
それを見てから荒井も同じくライターで、煙草に火を付けると煙草を吸い。
フーッと
「確かに10万近い金をポンと出せる訳じゃないから、痛い出費だぐけどアイツとのお別れは、今しかできないんだよ中村……中村や新メンバーの三浦にとっては苦痛かもしれないけど、アイツはもう死んだ。せめて表面上だけでもアイツを
そう言うと荒井は葬儀会社の横にある自動販売機から姿を消した。
中村は、荒井が居なくなったことを確認すると心中を吐露した。
「俺だって分かってるよ! 才能は誰よりもなかったかも知れないけど、対バンへや箱のスタッフへ挨拶周りは率先してやってたし、ライブの空気を作ってたのもアイツだった」
メジャーデビューしても、ライブをする場合。会場の空気を作るメンバーが居ないと、ライブは成功しない事を、成功しているバンドを研究している俺は知っている。
自分ならできると言う自信はあるが、アイツの功績もデカかったと思っている。俺がアイツを否定する気持ちは、多分アイツを尊敬し、大きな存在だと思っている裏返しだと思う。
アイツだけは煙草を吸わなかったが、俺の誕生日にはこのオイルライターを送ってくれた。SC.Nと刻印されたオイルライターは俺の宝物だ。
俺はむせそうなほど煙草の煙を深く吸い込むと一気に煙を吐き出した。
(俺からお前だけの特別な焼香を上げてやる。お前が死ぬまで一本も吸わなかった煙草の煙だ。来世があったら幸せに生きろよ?)
アイツが教えてくれた雑学にはこんなものがあった。
織田信長は、父・織田信秀の焼香に訪れた信長の服装は、長柄の太刀と脇差しを稲穂の芯で編んだ縄で巻き、髪は茶筅で巻き立て、袴も着用していない輩のような服装で、焼香のときには仏前へ進み出た信長は抹香をぱっと摑むと、仏前へ投げつけて帰ったことである。
俺はそこまで無礼な事は出来ないが、お前を超えて大物になるために天下布武を掲げ、戦国の世を駆け抜けた男にあやかる事にしよう……
そう言えば売れてるバンドのライブに行ったり、ライブ映像を見に行く事の重要性を説いていたのもアイツだった。
それは、どうやったらノルマ以上のチケットをはけさせることが出来るか? と言う物だった。
「馬鹿な俺達は経験で学ぶしかないんだよ。だったらさ、成功している人を徹底的に研究して、真似して、真似して、真似して、試せば最短で経験して身になると思うんだ」
その提案通りにした結果。一応成果はでてメジャーデビューのお声がかかる程度には、成功したのだから正しかったんだろう……
中村は焼香に遅れないように駆け足で階段を駆け上がった。
============
【あとがき】
書いた順番は葬式下から、でもこっちが先の方が良いと思ったので先にうpします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます