第EX2バイト先ざまぁ 下
「売り場の電気付けてきます」
仕事だとはわかっているものの、店長と反りが合わないと理解している二人は必要以上の会話を避けてる。コレも大人の処世術だ。
別に今すぐ売り場の電気を付ける必要はないが、店長も副店長も同じ空間にいる時間を極限まで少なくしたいのだ。
「あ、そう? じゃぁよろしく」
店長がそう言うと、私物のノートパソコンを持ち出して店内の方へ歩いて行った。
「あーそっか今日あの白髪ネギも居るのかよ……めんどくせぇなぁーー」
30代前半の店長にとって50代の副店長は、
「って言うかよく考えたら、高卒フリーター遅いな……気色悪いがモーニングコールでもしてやるか……」
店長はSNSアプリから高卒フリーターを探して電話を掛ける。すると
耳を澄ませて聞いてみると……スマホの振動音に似ている。
「ちっ! あいつまだ作業してんのか? それとも寝てるのか? まぁいいなんにせよ実際に見てくればいいんだからな……」
店長はそう言うと、事務所のドアを開けて倉庫の中に入った。
中は相変わらず、打ちっぱなしの鉄筋コンクリートのせいか少しひんやりしており、掃除が行き届いていないせいか。ホコリと土、そしてエンジンオイルと洗剤の匂いがする。
「相変わらず臭いなぁ……まぁだからみんなアイツに面倒ごとは任せてるんだけど……」
店長は一応。高卒フリーターが居る可能性を考慮して小声で呟いた。
「おーいいるかぁー」
店長は声を張る。
しかし返事は帰ってこない。
直ぐに見える範囲には人影は見えない。
「ったく。アイツはどこにいるんだ? 一応上も見ておくか……」
店長は金属製の足場で出来た中二階も見るために一度大きく、中二階の脚になっている棚を避けて回る。
一応棚の間で寝息を立てていないかと、思って確認するために覗き込んだが、そこにもいない。
やはり、中二階かと。確信を持ってやや急な階段を昇る。そこにはぐったりと横たわった高卒フリーターが居た。
「いるならいるで、返事しろよこのダボ!」
若い頃は見た目通り非行少年まっしぐらだった店長は、なんの迷いもなく爪先で残業で疲れているフリーターを蹴る。
いわゆるトーキックだ。
しかし態勢が崩れるだけで、痛たがる素振りはない。
「はぁ?」
店長は予想外の反応に思わずフリーズしてしまう。
「もしかして……」
店長のアルコールで鈍った脳内にも、もしかして……急病? と言う可能性がようやく過った。良く見れば口元には泡を吹いた後がある。
「まっず!」
ようやく事態の重大さに気づいたのか、慌てて階段を下りたせいで盛大にすっころぶ。
「いってて……」
「凄い音がしましたけど……」
――――と流石に無視できないと感じた副店長が、バックヤードの重い鉄扉を開けて入室する。
「あのフリーターが! あのフリーターが!」
動揺を抑えきれず。要領を得ない回答に副店長は面倒くさそうな表情を浮かべて聞き返す」
「彼がどうしたんですか?」
「た、倒れてるんだ!」
ようやく紡いだ言葉は、「意識がない」でも「泡を吹いている」でも「死んでる」でもなく倒れている。混乱している事がよくわかる。
「店長アルコール臭いですよ。だから転ぶんですよ。全く……それにまた彼酷使したんですか? いつか過労死しますよ彼……バンド活動も最近は調子が良くて忙しいらしいですし……」
副店長の言葉から出た『過労死』と言う言葉。それによって一気に酔いがさめるのを感じる。
馬鹿な店長でも理解したのだ。過労死かもしれないと……もし過労死ともなれば責任者の店長は良くて降格処分、悪くて首だ。
真っ青になりながらも彼は、決断し最後にこういった。
「救急車を呼んでくれ」
こうしてユーサーの前世の男は死亡した。
彼の死によって店長は懲戒解雇。会社には業務改善命令と罰金、そして彼の遺族には莫大とは言わないまでも大金が支払われ、地方新聞と地方ニュースで報道される程度には大きなニュースになった。
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