第45話奴隷商人を仲間に




 本人が引退しているとは、言っていたが大きな商会の会長をしていたのだから、悪名や名声問わず名前が知れ渡っているのだろう。


「あぁ、好々爺然とした外見ながら目だけは、肉食獣のようなどう猛さを持った老人ならそうだな」


「やはり、その特徴はジョバンニおうですな……」


 ドジョウ髭の奴隷商は太ったカラダをくねらせて、全身で喜びを表した。

 

 変人だな……


 警護の騎士が長剣の柄に手をかけようとするので、右手を上げて静止する。

 商会の職員や奴隷たちは、彼の奇行に慣れているのか大きな反応を示すことは無い。

 騎士達が長剣の柄に手をかけている姿を見て、短く「失敬」とだけ謝罪した。

 俺は気にした素振りを隠して……元の話題に軌道修正する。


「有名なのか?」


「えぇ、わずか一代で大商会を築き上げた御仁で、数少ない商人組合ギルドの相談役でもあらせられる豪商です。

 ジョバンニおうがユーサー様にご協力するのであれば、鬼に金棒でしょう! ジョバンニおうは積極的に貧民に施しを与える程人徳の高い御仁ですので、彼の手が入っているのなら、奴隷このこ達を安心して預けられると言う物です!」


 随分と信頼されているようだ。

 確かに物腰柔らかな人物ではあった。義理や人情のある人なのだろう……

 それよりも俺はこのドジョウ髭の行動が気になる。


「貴殿はジョバンニのファンなのだな……」


「ファンなどと……そんな……」


 そう言いながら、ドジョウのようなピョコピョコと生えたチョビ髭の太った奴隷商は照れた。


 気持ちわる!


 全身にゾクゾクとした寒気が走り、全身の毛穴付近がポツポツと隆起し、サブイボと言うのか、鳥肌かは分からないが兎に角そう言う状態になる。

 熱いお茶を飲み。身体を暖めて、精神を落ち着かせる。


「まぁなんにせよ。資金は百パーセント。ウチが出した商会が作られて、人手が必要になる。場合によっては奴隷を買ったり、労働力として借りる事もあるだろう……相場が上がらないように配慮して欲しい」


 商売の基本は需要と供給。欲しがる人間が多ければ高くなる……今回は欲しがる人間が多い訳ではないが、絶対に買われると思っていれば値段は上がる。

 出来るだけ安く、多く買うために根回しをするのは当たり前だ。

 前世でもフェアトレードだとか、動物愛護だとか、綺麗ごとを言っている奴はいたが、弱者から搾取するのは自然の摂理だと俺は思っている。


「分かりました。こちらも商売でしておりますので、譲れぬ一線は御座いますが……まぁジョバンニおうの顔を立ててぐっと堪えましょう……それで私や商人への見返りは考えているのでしょう? 是非ご説明願いたいものですな……」


 先ほどまでの温和な雰囲気から一変し、商人の目になった。


そう来なくっちゃ……


 俺も一段ギアを入れて交渉に入る。


「いいだろう。だが人払いをお願いしたい……」


 俺は人に聞かれるなら話すことは無い。と言う態度を取る。

 暫し沈黙ちんもくが流れ、俺が椅子のひじ置きに手を乗せ立ち上がろうとした瞬間。


「分かりました」


 そう言って、奴隷商は人払いの指示を出した。


 何とか賭けに勝ったな……ここ以外のマシな奴隷商を探し説得するのは骨が折れる。


 デニスとスヴェを外で待たせてあるのは、腹芸が出来ないスヴェを同席させるメリットがない事と、デニスには計画の概要を知られても内容までは知られたくないからだ。

 次男家や三男家に情報が流れる事はないだろうが、お爺様には間違いなくながれる。本亭には次男家や三男家に情報が流れる事を出来るだけ遅くしたいからだ。

 

「賢明な判断をありがとう。ミスター。

 さて……先ず現在我が家は三つの派閥で、次期公爵の地位を争奪している事は知っていると思う……我が父パウルは商業を重視し収入を上昇させ、この公爵継承戦争に勝利するつもりである。

 奴隷商の貴殿にはあまり関係ないかもしれないが、やる事は道路整備と、治水だ」


「突飛な事はしないと?」




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