第19話 発掘方法と襲撃
「今日の発掘はこれで十分だよ。時間を取ってくれてありがとうね、ホーラ」
取り敢えず関節部分までの化石を取り出した。
続きはまた今度掘りに来よう。
「掘るの、すごく早かったですね。それに、取り出された化石もすごく綺麗です」
僕の手にある化石を見て、ホーラが感嘆の声を上げた。
「リトルドラゴンの化石は何度か掘っているし、冒険者組合の資料で全身骨格の図を見たこともあるから」
冒険者組合には、化石ハンターがこれまでに見つけた化石の記録が、図や文字とともに資料として残っている。
僕は会ったことがないけど、冒険者組合には専属の化石分析家がいるみたいで、その人が化石ハンターの発見した化石の情報をまとめ、資料を作成してくれている。
冒険者組合に行けば、その資料を自由に読むことができる。
「全身骨格を知っていたら、だいたいこの辺の部位の化石かなって当たりがつくし、そうしたら自分が掘り出そうとしている化石のかたちのイメージができて、早く綺麗に掘れる」
既知のモンスターと未知のモンスターだと、掘りやすさが天と地ほど違ってくる。
もちろん発掘しがいがあるのは未知のモンスターだけど、そうそうお目にかかれないのが現実だ。
僕も今まで五年ほど化石を掘っているけど、未知のモンスターの化石を掘り当てたことはただの一度もない。
「昨日もそうでしたけど、セレは化石を綺麗に掘りますよね。周りの石をできるだけ取り除いて。以前冒険者組合で見た化石ハンターは、周りの石もいっぱいくっついた化石を買取してもらっていました。セレが化石を綺麗に掘り出しているのは、そのほうが高く買い取ってもらえるからですか?」
「いや、どっちの化石も値段は変わらないよ。化石が入った石は、どれも一つ五ウルスだ」
一つ五ウルスという勘定だから、昔、化石の入った石を細かく砕いて売ろうとした化石ハンターがいたみたいで(化石をわざと壊すなんて、信じられない!」、今は同じ塊の化石とみなされる場合は、複数の石に分かれていても、それら一つで五ウルスという値段が付くように変更されている。
「買取額が同じなら、どうしてセレは化石の周りの石も、綺麗に取り除くんですか? いくら掘るのが早いセレとは言え、周りの石を取り除きながら掘るほうが、時間がかかりますよね? 掘れる化石の数が減りますし、襲ってくるモンスターに多くの隙を与えることにも繋がって、よくないことばかりな気がします」
その質問は、冒険者組合の受付嬢のクレアさんからもされたことがある。
「どうしてセレくんはいつも化石を綺麗に掘るの? ダンジョンでそんなことをしてたら、モンスターの格好の的じゃない」と。
僕はそのときに返した答えを、ホーラにも返す。
「自分の手で、最後まで化石を掘り出したいから」
クレアさんにこれを言ったら、「セレくんも男だね~」とからかい交じりに言われたけど、あれはクレアさんなりに僕の気持ちを理解してくれたのだと思う。それ以降は僕の化石の掘り方に何も言わないでいてくれたから。
だけど、ホーラはあっけらかんと、
「え、どういう意味ですか?」
と言う。
お、おう。
僕は何とかして口を開き、しどろもどろになりながらも説明する。
「えーっと、何て言ったらいいのかな。僕がやっている、化石の周りの石を丁寧に取り除く作業は、冒険者組合でもやってくれる作業なんだ。化石の入った石を冒険者組合で換金したら、あとは組合専属の人が化石を綺麗に取り出してくれて、その化石の情報を図や文字でまとめて、化石と一緒に保管してくれる。組合に行けば、その綺麗になった化石を手に取って見せてもらうこともできる」
ホーラは僕のまとまりのない話にも、口を挟まずに耳を傾けてくれている。
「だけど、それだと、その渡された化石が、自分がダンジョンで掘った化石だとは、僕にはどうしても思えない。僕の知らないところで、化石の周りにたくさん石がついた不格好な石から、いきなり綺麗な化石に変わってしまって、それがどうにもしっくりこなくてさ……」
自分の気持ちを上手く言葉にできないのが、もどかしい。
「セレの言いたいことは、何となく分かります。それは、つまり……。いえ、つまりという言葉でセレの気持ちを分かった気になるのは、セレに失礼ですね。私は、今感じたことを、セレの今の言葉を、そのままのかたちで覚えておこうと思います」
ホーラがそう言い、僕たちが一階層を再び周回しようとしたところで、ダンジョンの奥の道から叫び声が聞こえてきた。
「た、助けてくれ!」
十代後半くらいの男性冒険者だった。
彼の身に着けている衣服はあちこちが破れ、ひどい有様だった。
「ヘ、ヘルハウンドが!」
彼は僕の前で膝を折り、脚に縋り付きながらそう言った。
「どこです⁉」
すぐさまホーラがそう問い、彼は「三階層に出たんだ! しかも何体もいる!」と答えた。
「セレはここから動かないで。もし危険が迫ったら、ダンジョンの外に逃げてください」
「ホーラ!」
呼び止めようとしたけど、ホーラはあっという間にダンジョンの奥へと行ってしまう。
ヘルハウンドを一撃で倒したホーラだけど、数が複数ともなれば、討伐の難易度は上がる。
ホーラ一人で大丈夫なのか?
だけど、僕が行っても足手まといにしかならないし……。
そんなことを考えていると、急に後頭部に衝撃を感じた。
な、なにが――。
じんじんと頭が痛み出す。
――殴られた?
――――誰に?
――――――なぜ?
――――――――くっ、意識が……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます