第18話 リトルドラゴンの化石
「そこでは何の化石がたくさん取れるんですか?」
「リトルドラゴン」
「……聞いたことがない名前ですね。絶滅したドラゴンですか?」
「うん。ドラゴンと言っても、名前の通り全高は低くて、二メートルくらい。ドラゴンにしてはだいぶ小さかったみたいだ。それでも、昔は一階層にドラゴンが棲んでいたなんて、今じゃ考えられない」
「そうですね。ドラゴンと名前の付くモンスターは、今だと下層や深層に棲んでいますし、不思議な感じです」
「昔のダンジョンにはどんな風にモンスターが分布していたのか、頭の中で地図を作りながら発掘するとさらに楽しめるんだ。――着いた。この辺りだ」
「あ、ダンジョンの入り口に割と近いところなんですね」
「うん。そのこともあって、リトルドラゴンは〈ダンジョンの門番〉なんて呼ばれることもある。入り口に立ちふさがって、ダンジョンを悪しき存在から守っていたってね」
「そう聞くと、何だかロマンがありますね」
「でしょ。真相は誰にも分からないし、色んな想像ができるのが、化石発掘の魅力でもあるよね」
壁や地面に目をやって、化石が出そうなところを探す。
お、この辺りの壁がよさそうだ。
ハンマーでダンジョンの壁を叩き、割れて落ちた十センチ大の石を手に取り、化石がないかを確かめる。
この操作を化石が出るまで繰り返していく。
周囲にモンスターがいないか見張ってくれているホーラが、こっちを見て、
「リトルドラゴンの大きさは二メートルあるんですよね。そんなに小さな石に化石が収まるんですか?」
僕は一瞬彼女が何を言っているのか分からず、ぽかんとしてしまう。
ああ、なるほど。実際に化石を掘った経験がないと、そういう疑問が浮かぶんだ。
それに昨日、赤ちゃんスライムの形そのままの化石を見せちゃったし、勘違いしちゃうのも無理はないか。
どう説明したら伝わるだろうと思いながら、僕は言葉を紡いでいく。
「昨日見た赤ちゃんスライムの化石があるよね。あれはモンスター自体の大きさが数センチくらいで、かなり小さい。だから、十センチくらいの石に全体が収まるんだけど、そういう小さなモンスターの化石が見つかるのは、結構まれなんだ。ほら、ダンジョンに出てくるモンスターたちを思い出してみてよ。多くが十センチより大きいでしょ」
ホーラが頷く。
僕は話を続ける。
「そういう大きめのモンスターだと、全身の化石を一気に掘り出すのは難しいから、こうして壁とか地面とかを小さく砕いて石にして、モンスターの体の一部が入っていないか、まずは手がかりを探すところから始めるんだ。体の一部を掘り当てたら、その近くを慎重に掘り進める。他の部位の化石が埋まっている可能性が高いから」
「なるほど」
「それに、化石はそもそも全身が残らないことのほうが多いんだ。一部の骨だけが化石になって見つかるのが大半だ」
「セレはこの場所にはよく来るんですか?」
「〈スライムの巣窟〉ほどじゃないけど、ときどき来るよ。僕が初めて化石掘りをしたのがこの場所だから」
「へえ、思い出深い場所なんですね。そのとき化石は見つかったんですか?」
「うん。リトルドラゴンの爪の化石で、すごく小さかったけど。それでも、あのとき化石が見つかって本当によかった。何時間くらいかな。ずっと壁を砕いては、化石がないかを確かめて、それの繰り返しで――。全然化石が見つからなくてさ。もう諦めて帰ろうかなって思ったときに、ようやくそれが見つかったんだ。ものすごく嬉しかったよ。あのとき化石を見つけられていなかったら、化石掘りの楽しさを知ることができずに、たぶん今こうして化石ハンターになっていなかった」
あのとき僕の前に出てきてくれた化石には、感謝しかない。
「その化石は、ダンジョンから持ち帰る途中で落としちゃったみたいで、家に帰ったらなくなってたけどね。すぐにダンジョンに戻って探しても、結局見つからなくてさ。今だから言えるけど、あのときはめっちゃ泣いたよ」
あのときは一晩中、父が頭を撫でていてくれた。
その手のぬくもりを、今でもはっきりと覚えている。
「ま、そんなわけで、ここにはときどき来るんだ。今では当時に比べてだいぶ発掘技術も上がって――ほら、見つけ」
僕は砕いた石に入っていた化石をホーラに見せる。
「これは、どこの部位でしょうか」
「うーん、どこだろう。たぶん腕の化石かな。こう、腕の骨を輪切りにした。――壁のほうにも断面が見えているから、掘り進めたら、はっきりするはず」
壁に露出した骨の断面の、その周りの壁にタガネの先を当て、ハンマーでお尻を叩きながら、化石を掘り出していく。
タガネを適宜持ち替えて、化石を傷つけないように気を付ける。
「――よし。これでひと段落っと。予想的中だ」
予想通り、リトルドラゴンの腕の化石だった。
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