第11話

「おいっ!ルーナ!お前、こんな魔法何時思い付いたんだよ?!」

「ふぇ、ひぃまぁ。ひょらを……みちぇ……、きゃみぃにゃり……」

「はぁ。今、雷が鳴っている空を見て思い付いたのかよ……」


 ギルバートがルーナの頬を片手で掴み、ズイッと顔を近づけ詰め寄る。

 律儀にルーナは片頬を掴まれた状態で回答をし、慣れたギルバートはその言葉になっていない回答を理解した。


 溜息を洩らすとルーナの頬の手を退ける。頭をガシガシ掻き出し、その後は顔を片手で覆い再び大きくて深い体中の息を吐き切った。


 ルーナは掴まれた頬が痛むため擦りながらそんなかなり疲れた様子のギルバートを苦笑いを浮かべながら、気まずそうに見やる。


「あの、さ……、ギ——」


「ルーナさん?1つよろしいですか?」


 ルーナがギルバートに話掛けようと手を伸ばした瞬間、先程まで口元を抑えて俯いて思案にくれていたベルンハルトが至極爽やかな笑顔をうかべ遮る様に口を開く。


 恐る恐る返事をして振り返ったルーナの行き場を失った手をサッと掬い取ると、強くは無いが明らかに何らかの意図を含みながら握る。

 突然、手を取られたことも驚いたルーナだったがそれ以上にベルンハルトが纏う雰囲気の変化に戸惑う。


「ルーナさんこの氷の海で足止めする戦い方をどうやって知りました?」

「ふぇっ?!あの……、兵法書で見ましたかな?アハハハ……」


 ルーナは笑顔を浮かべてはいるが先程から冷ややかな雰囲気を纏いだしたベルンハルトに怯み、言葉を濁し過ぎて可笑しな言葉づかいになっている。もちろん顔色も青くさせ、背中にはじっとりと汗をかいている。

 隣でギルバートの小さい嘆息が聞こえる。

 そんなルーナの様子を意図の読めない菫色の瞳でじっと見つめるベルンハルト。

 静かに緊張感が増していく。


「へえー、おかしいですね。これだけの広範囲を凍らせることが可能な魔導師はほとんどいません。そんな戦い方が可能な人なんて歴史上数人だと思うので、そんな稀な方法を兵法書にのせるでしょうか。

魔法研究書ならまだしも……」


「それです!魔法研究書!」


「っふふ!ルーナさんは大変お可愛らしいですね」


「へぇあ?!」


 突然、カラカラと声を上げながら笑い出したベルンハルト。その菫色の瞳はとろんと蕩ける程の熱を湛えながらルーナを見つめている。


 ルーナは突然目の前で無邪気にあどけなく笑いながら「可愛い」とベルンハルトに言われ、顔に熱が集まっていく。熱を湛えた瞳でじっとルーナを見つめるベルンハルトを直視できずに自然と視線が下に向く。


 すると、ベルンハルトはおもむろにずっと握っていたルーナの手の甲に顔を近付け、唇を軽く落とした。

 ルーナは口づけされたことに驚き、小さく悲鳴をあげ大きく肩をはねさせる。先程よりももっと顔に熱が集まるルーナ。

 クスリと小さく一笑し顔を挙げると、再びルーナをとろんと熱湛えた瞳で見据えながらベルンハルトは口を開く。言い終わると同時に顔中を綻ばせ綺麗に微笑んだ。


「ルーナさん。あなたをずっと探していました。私と結婚してください」


『はうわわわぁ。推しカプの生プロポーズスチル最高です。異世界転生ヒャッホゥ!!赤面ルーナたんきゃわたん!ペロペロしてやりたいわぁ!!』


「おい、ルーナ?!息しろー?!!!」


『イザベル様キャラ変わりすぎいぃぃぃ……』


 ルーナはベルンハルトからの突然のプロポーズやイザベルの早口日本語でのえげつなき内容、顔中が溶け鼻の下を伸ばした貴族令嬢としては禁忌な表情など、諸々情報過多のために脳が考えることを拒否し身体がグラリと傾いた。


 徐々に薄れ行く意識の中ルーナは、「殿下の手すっごい震えていたな」と全く関係ないことを考え、意識がぷつりと途切れた。

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