81 浅神の妹ちゃんのお見舞い
水曜日。放課後、生徒会室。
正式に浅神のご両親を呼び、浅神の妹ちゃんの手術費用を渡すこととなった。
前世の現実世界ではテレビの取材なんかがあったりしたもののように思えたが、今回は募金活動期間も短かった為か、そういったメディアの取材などはなしだ。
豪徳寺が目録のようなものを浅神父へと渡す。
「ありがとうございます……!」
ぱちぱちと教職員も大勢集まり、募金の成功を祝う。
浅神の両親が揃ってみんなに頭を下げている。
そうして正式に募金で集まった全額が浅神家に引き渡された。
会が終わり、生徒会室に残ったのは私、水無月さん、浅神だけとなり、浅神が私達に話し始めた。
「香月、それに水無月。二人が居なかったらこんなことは起きなかったって思うと、本当に頭が上がらない。ありがとう。それで……もし二人が良ければなんだが、妹に会ってやってくれないか?」
「え? 妹さんに?」
「おう。二人の話をしたら会ってみたいって言うものだから……。いや気まずいならいいんだ。まだ手術が成功したわけでもないし……」
しかし、私達二人は手術が成功することを知っている。
手術が成功するかどうか分からないなら気まずいかもしれないが、そんな心配は無用だ。
だから私は提案を受けることにした。
「いいよ。いつ? ね? 水無月さん」
「えぇ……私達の予定が空いていればいつでも」
「そうか……! じゃあ3日後の土曜日なんてどうだ?」
「うん。私はあいてるけど、水無月さんは?」
「午後からはももの家庭教師の仕事があるけれど、午前で良ければ……。
午前でもいいかしら浅神くん?」
「あぁきっと大丈夫だ。それじゃあ3日後の土曜午前中に病院で」
そうして私達は病院の住所と入院している部屋を教えて貰った。
「きっと喜ぶと思う……」
私達に会って喜ぶ妹ちゃんの姿を想像したのだろうか、珍しく浅神が笑顔を見せた。
∬
3日後、土曜。
私と水無月さんの二人は浅神妹ちゃんの入院する病院へと訪れていた。
病棟受付でお見舞いの手続きをして、浅神妹ちゃんの部屋へと足を踏み入れた。
「おはようございまーす」
「うす。早かったな香月、水無月」
浅神が私達二人を迎えてくれる。
そしてベッドへと向かうと、背を起こす浅神妹ちゃんの赤い髪が見えた。
「朱音……言ってた兄ちゃんの友だちが来たぞ」
「本当だ……! えっと、香月さんに水無月さんですよね?
兄からお噂は窺ってます! 浅神朱音です。小学校6年生です。よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀する朱音ちゃん。
「これはこれはご丁寧に……統制学院2年香月伊緒奈です!」
「同じく統制2年、水無月未名望よ」
「伊緒奈さんに未名望さん……覚えました! お兄ちゃんからは苗字しか聞いてなかったんです。お二人共素敵なお名前ですね!」
笑顔を向けてくる朱音ちゃん。
「ありがとう。朱音ちゃんの名前も素敵よ」
そう水無月さんが応じ、私も「そだねー」と続いた。
「それと、これ。お見舞いのお花よ」
水無月さんが花束を浅神にわたすと、「花瓶に水入れてくる……」と浅神は部屋を出た。
「あの……今回は本当にありがとうございました。私の手術費用、お兄ちゃんがなんとかするってずっと言ってたけど、私、半信半疑だったんです」
朱音ちゃんがそう言ってかしこまる。
「良いのよ……私達は出来ることをやっただけだから……」
水無月さんがそう答え、私も「うんうん。気にしないでいいよ」と朱音ちゃんに伝える。
「それとあの……お礼以外に突然なんですけど、お二人にお願いがあって……!」
と朱音ちゃんが思い詰めた様子で切り出した。
なんだろう? 私達にできることならなんだってするよ!
「わたしたぶん近々手術をすることになると思うんです。
それでもし私が死んじゃったりしたら、お二人のどちらかがお兄ちゃんを慰めて貰ってもいいですか……?」
そう思い詰めた様子で言う朱音ちゃん。
そんな事気にすることないのに、とは言えなかった。
こんな小さい体で――といっても私くらいあるけど、とにかくまだ小学生なのに大手術をしようというのだ。不安にならないわけがなかった。
「大丈夫よ……その道の名医が執刀してくれるはずよ」
「そうそう。水無月さんの言う通り! 大丈夫! 大丈夫!」
「でも、もしもってこともあるから……その時はお二人にお兄ちゃんのことお願いしたいんです。ダメ……ですか?」
茶色の瞳を潤ませて私達に訴える朱音ちゃん。
いや、聞いてあげたいよ。聞いてあげたいけど「お兄ちゃんをお願いします!」ってのにはちょっと応じかねる。
「……そうね。それじゃあ私が任されたわ」
と水無月さんが答えた。
「ちょ……水無月さん!?」
「良いのよ香月さん。万が一なんてことはどうせ起こり得ないもの。
起こり得ない事だから安請け合いしても平気よ」
自らの髪を後ろに払い除ける水無月さん。
「朱音ちゃん。貴方は生きてこれからも素晴らしい人生を過ごすのよ。
だから馬鹿なこと考えるのはこれで最後にしなさい。
私との約束よ」
そして水無月さんは朱音ちゃんのベッドに近づいて、小指を出した。
「はい……。なんだかすみません弱気になってしまって……。
分かりました! 約束です!」
二人は指切りを交わし笑う。
そして浅神が花瓶に水を入れて戻ってきた。
「何かあったのか?」
雰囲気が違うことに気付いたのか浅神が問う。
「なんでもないよ! ね、みんな!」
私がそう確認すると、水無月さんが「えぇ、女の子だけの秘密よ」と言い、朱音ちゃんが「うふふふ」と楽しそうに笑った。
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