80 会議の結果と短期留学の参加者
出し物は結局、演劇に決まった。
そしてシナリオを桜濤側が用意することがすぐ決まる。
どうやらシナリオを書きたいという生徒がいたらしい。
投票で負けた時は私がシナリオを書く事も考えたが、どうしても桜濤側で書きたい子がいるのだと言われてしまい、引き下がるしか無かった。
本日の生徒会が終わった。
その後、私は桜濤の生徒二人とメッセージのIDを交換することこそ成功したが、肝心の演劇を避けるという方針は見事に打ち砕かれてしまった。
今からメッセージで説得しても間に合うものではないだろう。
「はぁ……残念だったね水無月さん」
最後、二人だけとなった生徒会室で私は水無月さん相手に項垂れる。
「えぇ……けれど思惑通りに彼女たち二人とIDは交換できたのだし、及第点よ」
「やっぱり二人共水無月荘のメンバーなんだ?」
「えぇ……そうよ。香月さんをびっくりさせようと思って黙っていたの」
「もー早く言ってよ! それはいいけどさ……!
水無月さんこのままじゃ私か水無月さんが佐籐と……!」
「それも分かってはいるけれど、仕方ないわね。ひつぐへのヘイトを私達が肩代わりしたと思って諦めるしかないかもしれないわ」
「そんなーどうにかならないのー」
私はぽかぽかと水無月さんの胸を叩く。
しかし、どうにもならなさそうに苦虫を噛み潰したかのような表情をする水無月さん。
「まぁいざとなれば私が演るわよ……香月さんには佐籐くんの相手は荷が重そうだもの。もう全キャストの内容を暗記していると言ってもいいくらい何度も台本は読んだもの、簡単なことよ」
生徒会ルートを何度も通ったらしい水無月さんが胸を張る。
それって佐籐ルートなのか豪徳寺ルートなのかどっち? と聞いてしまいそうになったが、水無月さんにとってはやはり良い思い出とは思えなかったのでぐっと堪えた。
部活はちょうど終わっている。
メイドとして働こうか水無月さんに聞くと、「神奈川さんには悪いけれど、今日はやめておきましょう」と水無月さんが言うので、キーネン家には行かないことにした。
∬
休日。私は水無月さんに言われ、父と一緒に1億円の資本金と留学費用及び会社設立費用の100万円を水無月さんの口座に振り込んだ。
店頭で何度も「詐欺ではありませんか?」と確認されたが、「大丈夫です。共同設立する会社の資本金なので……」ということで押しきった。
そう言えば前回当選金を貰った時も休日だったけど、この世界では休日に銀行がやってるんだよね……。
現実世界では銀行法で休日と定められた日曜や土曜、祝日は基本的に店頭は営業していないのを思い出す。何故だろうか?
なにかゲームの設定的な伏線が混じっていそうで気になりつつも、私はスマホに指を滑らせる。
“振り込んでおいたよ水無月さん”
“そう。ありがとう。あとは少々書類を書いてもらうことになるから後で送るわ。
設立時に取締役となってもらう為に多少書類が必要なのよ”
“おっけー。待ってる”
そうして水無月さんへのメッセージを終えた私は、自室で硯さんにメッセージを始めた。
“こんにちは硯さん。今ちょっといいかな?”
暫くして返事があった。
“香月さん。はい。どうかしましたか?”
“硯さんは演劇についてどう思ってるのかなーって”
“演劇ですか、私はあまり演劇向きではないので反対していました。
けれど決まってしまったものは仕方ありません……”
“そっか硯さんは反対だったんだね。私も~。どんな内容になるのかなー?”
“さぁ、それはシナリオを書く加藤さんに聞いてみないとなんとも……”
“そっかそっか、急にごめんね。シナリオが決まったらまた話そ”
“はい。また”
出来ることならばシナリオが決まったらなんやかんやと口出しして、なんとしてもシナリオを変えさせたい。そうすれば水無月さんが佐籐の相手役になるなんてことも避けられるはずだ。
シナリオを書くという加藤さんには覚悟してもらいたい!
って言っても、今日みたいに多数決で決めるとかなった場合には私は太刀打ちできない……。
「あーあ~。多数決嫌いだぁー」
ベッドに体を任せ、私はうとうとと昼寝をした。
∬
ふと、気がつけば時刻は午後5時を回っていた。
「やばい。寝すぎたかも」
そう一人呟くと、私は寝たままスマホを手に取る。
いくつも通知が来ている。
“香月さん水無月さん。私もサウジアラビアに夏季短期留学することにしました”
“私も行くから!”
“私も行くことになったわ”
と、天羽さんを筆頭に、桜屋さん、守華さんがカフェテリアグループでサウジへの短期留学への参加を決めた旨を報告していた。
「うぇ!? マジでみんな来るの……!?」
メッセージを見ると、水無月さんが“みんな一緒で楽しそうね”とコメントしている。いやいや! 水無月さん占拠事件どうするつもりさ!?
確かにイヴンのお父さんは何人でも大歓迎らしいけど、まさかこんな大所帯でサウジに夏季短期留学することになるとは思ってなかった。
私と水無月さんだけならばともかく、ゲームのシナリオとは大分違う展開になりそうだと私は漠然とした不安を抱いた。
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