79 桜濤学園との会議
放課後。私は授業が終わると、生徒会室へと向かった。
「やっほ守華さん!」
「こんにちは香月さん」
生徒会室へ入ると、既に守華さん、豪徳寺、佐籐の3人がいた。
「まだ桜濤学園の生徒が来るまで時間があるけど、なにかやることはある?」
「いいえ……特には……。やることといえば、まだ正式に浅神くん家に募金を振り込む手続きが終わっていないことくらいかしら?」
「そっか。じゃあ手伝えそうにないね」
すると、佐籐と豪徳寺がなにやら過去の生徒会の書類を出してきた。
「なにそれ?」
私が聞くと、佐籐が「以前の生徒会劇の台本だよ」と教えてくれた。
「へぇ……台本……どんな内容……?」
「……ロミオとジュリエットだったり、嵐が丘だったり……他に自作の劇がたくさんあるみたいだ」
ロミジュリはともかく、嵐が丘とな。
結構ハードな愛憎劇だったような気がするが、高校生の劇でやるものだろうか。
「ま、そんなの引っ張り出すのはやめておこうよ。まだメイド喫茶やる可能性だってあるんだからさ」
私がそう言って豪徳寺と佐籐の行動を止めると、生徒会室のドアが空き、水無月さんと唯野さんがやってきた。
「ね、水無月さん、唯野さんもそう思うでしょう?」
「何のことかしら?」
「はい?」
私は二人に説明すると、水無月さんが「そうね。メイド喫茶だって可能性だってあるもの」と同意し、唯野さんが「私はなんとも……」と答えを濁した。
そうして30分ほど過去の台本を読みつつうだうだしていると、豪徳寺が席をたった。
「おし、俺は守華と一緒に校門に出迎えに行ってくる」
豪徳寺が言い放ち、守華さんを伴って出ていく。
それから暫くして、二人が戻ってきた。
「戻ったぞ! お客人達を連れてきた!」
楽しそうな豪徳寺。きっと女の子が増えたのが嬉しいのだろう。現金なやつだ。
守華さんが、「どうぞどうぞ~」と桜濤学園の客人を連れて入ってくる。
ずらーっと桜濤学園生徒会6人勢ぞろいかと思っていたが、来たのは二人だけだった。
席へと二人が座り、自己紹介の流れなった。
まずは私達、統制学院生徒会メンバーが各々に自己紹介を行っていく。
そして最後に水無月さんが紹介を終え、次は桜濤学園の番になった。
赤紫色の背まである髪を携え、少女がすっと立ち上がる。
その赤色の瞳が私達統制学院生徒会メンバーをぼんやりと捉えている。
「桜濤学園生徒会長の
私はこの紹介を聞いてハッとしてしまった。
間違いなく私の推しの声をしている。
新進気鋭の事務所で演技派の若手と知られる。
一昨年――無論私が死ぬ前の話であるが、声優賞で新人賞を受賞した声優さんだ。
確か彼女もチューバを特技として掲げていたはずだ。
事務所ホームページに記載されていたからよく覚えている。
硯さんの質問に佐籐が「僕は演奏する奏だよ」と答える。
次いで、元気よく「次は私ね~」と茶髪ミディアムボブの女の子が立ち上がった。
「私は桜濤学園副会長をしてる
戸吹さんの紹介を聞き、またもや私は度肝を抜かれた。
大人気4人組声優ユニット一番の若手の子だ! 私の推しで間違いない!
声がまるで彼女そのものだ!
二人が自己紹介を終え、私はひっそりと水無月さんの顔を見た。
私と目線が合い、水無月さんはふっと微笑む。
やっぱり水無月荘の一員だー!!
ちょっと待って、今日来てるのは二人だけど、あと残り四人いるんだよね?!
まさか全員が水無月荘のメンバーなんてことはないよね!
水無月さんに情報の開示を要求するー!!
戸吹さんも自己紹介を終え、ほっとしたのかその薄紫色の瞳が潤む。
そして話題は統制の学園祭で共同でやる出し物の話へと移る。
「まず統制からは伝統の演劇と、メイド喫茶の2案が残りました。
そちらはいかですか?」
守華さんが統制の出し物案について説明すると、硯さんが「私達の案では、お化け屋敷、喫茶店、そして伝統の演劇の3案が残りました」とすぐに答える。
「お化け屋敷に、喫茶店と……メイド喫茶と別にしておきますね」
守華さんが呟きながらホワイトボードへと書き込む。
「では、なにか意見がある人はいますか? なければ多数決になりますが、桜濤学園側は2名しかいない為、一人辺り3票分の投票権を持っていただきますね。よろしいですか硯会長」
「はい。桜濤側の意見も私達で把握しているので問題ありません」
硯さんはそう言って戸吹さんとなにやら分担の相談をする。
そしてすぐに「大丈夫です」と進行の再開を促した。
「では投票になります。まず最初に、演劇が良い人?」
守華さんが手を挙げるよう促すと、唯野さん、佐籐、そして硯さんが片手で、更に戸吹さんが「あ、私2票分です!」と両手で投票する。
佐籐はともかく、唯野さん!? まさか演劇が良いと思っていたなんて……。
それに桜濤側からも3票も入っている。どうしたものか……。
「じゃあ次に、お化け屋敷が良い人?」
戸吹さんが片手を挙げる。
「それではメイド喫茶が良い人?」
私、水無月さん、豪徳寺、そして硯さんが片手を挙げた。
守華さんはメイド喫茶賛成してくれないかー。
まぁ仕方ない。コスプレとか苦手そうだものね。
「最後に喫茶店が良い人?」
これに守華さんが手を挙げ、そして硯さんも片手を挙げる。
「えー投票の結果……演劇が5票、お化け屋敷が1票、メイド喫茶が4票、喫茶店が2票。
以上の結果になりました」
守華さんがそう告げ、私は「異議あり!」と手を挙げた。
「どうぞ香月さん」
「確かに一番票数が多いのは演劇だけど、メイド喫茶と喫茶店を合わせたら6票ですよね。
再度決選投票を実施するのが良いとおもいまーす」
私は強気でそう提案した。
だって演劇になって佐籐の相手するのなんてまっぴら御免だ。
絶対演劇になるのは阻止したいところだ。
「それでは決戦投票という意見について決を取りたいと思います。
賛成の方は手を挙げてください」
「はーい」
私、水無月さん、守華さん、硯さんが片手で、そして戸吹さんも片手を挙げる。
全部で5票が決選投票に賛成ということになった。
全12票であるからして結果は、決選投票を認めないということになる。
「ちっ」
私は小さく舌を鳴らした。
「では、最初の投票の結果を優先し、共同での出し物は演劇ということになりました」
守華さんが残念そうにそう宣言した。
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