74 思い出の確認
夜。
「全く今日はひどい目にあったー!」
お風呂に入りながら水無月さんに電話で文句を言う私。
けれど水無月さんは平然と「そうね……」と言うと、「まさか黒瀬くんと浅神くんが来るとは思ってなかったわ」と続ける。
「それな! まぁ私はあいつらがいたことでむしろ緊張ほぐれたけど」
「それは彼らがいて安心できたって意味ではないのよね?」
「ないない。むしろ興味なさぎて落ち着いた的な……?」
「ふふ……香月さんらしいわ」
「ところで、あの写真、どこに載るか聞いてる?」
「えぇ……再来月号の大手結婚情報誌に載るらしいわ」
「はぁ!? マジかー女の夢として、一度はあの雑誌に載ってみたいと思ってたわー」
「嘘つき」
「ばれたか、ふふふ」
ここで、水無月さん結婚はどれくらいしたの? とは聞かない。
水無月さんにとってこの世界でのループの思い出は決して良いものではなさそうだからだ。
気にはなるけどね。
それにしても大変なバイトだった。
でも水無月さんと私のツーショットを思い出として後で送って貰えるって話だ。
それと、あっちゃんとは撮影終了後にメッセージを交換してグループを作った。
あっちゃんは「またなにかあれば頼むわねっ」とウィンクを飛ばしてきていたけど、今の私は別にお金に困ってるわけじゃない。
水無月荘の一員が関わるような自体でも起きない限り、私はバイトは懲り懲りだ。
「あーそれから水無月さん。夏季留学の件だけど、一応私も参加できないかってイヴンに掛け合ってみたよ」
報告連絡相談は重要である。
私は水無月さんに素直に伝えておくことにした。
「え……? まさか香月さん夏季留学に来るつもりなの?」
「うん。水無月さんをサウジで一人になんて出来ないからね! もう一人留学できれば私も一緒に行けるよ……!」
「そんな……香月さんどんな事件が起きるかは分かっていて?
私一人居れば十分なのに……」
「それはうん、まぁ一応どうなるかは分かってるつもり」
イヴンの跡目争いでは銃を持ったテロリスト達による建物占拠人質事件が起きる。それに水無月未名望は巻き込まれることになるのだ。
「下手をすれば死んでしまうのよ……私はもう慣れてるけど、おすすめできないわ。
普段の香月さんの手で行けるなんて思わないことよ……貴方にもしものことがあったら……」
「分かってる! 分かってるって。私はあくまでも付き添いのモブだよ。
イヴンルートの攻略は水無月さんに基本お任せするから!」
「そう……。まぁ私はイヴンくんからの返事がノーであることを祈るわ」
水無月さんがそう言ったあとだった。
あっちゃんとのグループにメッセージが届いた。
“二人共と~っても綺麗よ~”
メッセージには1枚の写真が添えられている。
「お! 例のツーショット写真だよ水無月さん!」
写真には花束を持って並ぶウェディングドレス姿の私と水無月さんが写っていた。
「水無月さんキレイ~」
「香月さんも……」
私は何がなにやら分からない困惑状態での撮影で少し疲れ気味に見える。
だがそれでも綺麗に写っていると思う。
女の子同士で結婚したらこんな風になるかもしれない。
しかし、私はあくまでも男の人が好きだ。
だからそれは起こり得ない話で……ってなんで私自分に言い訳してるんだろう。
なんだかおかしくなって笑ってしまう。
「ティヒヒ」
「嬉しそうね、香月さん」
「いやいやうんまぁ。良い経験はさせて貰ったかな。
将来の予行演習的な?」
相手が浅神だったのは文句しかないが、ドレスを着れたのは良い思い出になった。
「そう、それなら誘って良かったわ」
と水無月さんが嬉しそうな声色で言った。
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