75 学際の出し物とヴァイオリンパートの新顔

 水曜日。

 本日の生徒会の議題は学園祭における桜濤学園との出し物についてである。


「今週の金曜日に桜濤の生徒会と合同での会議をして、本格的に出し物を決定することになります。ですがその前に、こちらとして出来そうなことをリストアップしておきたいと思います。まず始めに、例年通りの出し物として演劇を挙げておきますね」


 守華さんがそう言い、出し物リストに演劇が加えられる。


「はい、はーい。桜濤学園側は生徒会人数何人くらいなんですかー?」

「あちらも6人と聞いている」


 私の質問に豪徳寺が答える。

 へぇ6人かー。私達と同じような構成なのかもしれない。

 ゲームでは主にヒロインとして出てくる子が一人、ただし声無しだった。

 目立つのはそれくらいで基本的に全員モブだったはずだ。


「じゃあ私は食べ物屋さんが良いと思います! 12人で劇ってのも大掛かりになっちゃうし、メイド喫茶的なのやろうよ!」


 私が提案する。

 女子が10人も居ればさぞ場は華やぐに違いない。

 男ども二人は執事にでもしておけばいいだろう。


 なにせ佐籐を攻略する必要性が私達にはないのだ。

 演劇で面倒くさい事が決して起こらないようにする為にも、そもそもの出し物の種類を変えておきたかった。

 しかし……。


「だが毎年恒例で演劇をやってきたという伝統もある。

 基本的には生徒に任せるが、伝統を軽んじてはいけないよ」


 と顧問の英語の先生が口を挟む。

 珍しく今日は生徒会顧問の岩渕先生が会議に出席していた。

 きっと他校との行事についての話だからだろう。


 私は内心舌打ちをする。

 苦い顔をしていると、水無月さんが手を挙げた。


「私もメイド喫茶に賛成します。伝統は大切ですが、もっと大切なのは生徒の自主性ですから」


 ナイス水無月さん!

 これには岩渕先生も「うーむ」と唸るばかりだ。


「他に案はありませんか?」


 守華さんがみんなに問う。

 しかしみんな特に意見が無さそうだった。


「では取り敢えず、この2案を明後日の会議にかけるということで決定します。

 本日の議案は以上になります」


 本日の生徒会が終わり、私は水無月さんと二人きりになった。


「香月さん。今日予定は?」

「無い……! から部活行こうかなと」

「そう。私は今日はメイドをやる予定よ」

「そうなんだ! 私も部活終わったら行こうかな」

「えぇ……そうしたら良いと思うわ」


 そんな話をしてから、私は部活へと向かった。




   ∬




 講堂へ入ると、私は珍しくヴァイオリンのみんなが男女共に講堂に残っている事に気付いた。ん? なにかやってる……?

 近づいて確認すると、皇がヴァイオリンを抱えて演奏を始めるところだった。


「んげ! 皇時夜!!」


 私の奇声も苦にせず、演奏をする皇。

 さすがに上手い。お手本がどうのとのたまうだけの実力はあるようだ。

 パイプ椅子に座ったキーネンが「ほう……」と感嘆の声を漏らす。


 演奏が終わり、


「どうだ!」


 自信満々な様子を見せる皇に、キーネンが「V1合格だ」と判定を下す。


「よしっ!」


 ガッツポーズをする皇と、すぐさまヴァイオリン2への降格を告げられる男子生徒。

 まさか皇がヴァイオリン1に加わってくることになるとは……。


 私はその様子を見終えたあとに楽器室へと向かい、準備をして再びヴァイオリン女子に合流した。


「あぁ香月さん! ふぃーこの不肖鈴置弓佳……なんとかV1とコンミス残れたよぉ~」

「みんな演奏したの?」

「ううん。そういうわけじゃないんだけどね。誰かが落ちるのはなんとなく察してたからさ」

「そっか」


 それなら良かった。私も皇と競って演奏しなければならなくなるかと思っていた。

 まぁ負ける予感はそんなにしないけどね!


 鈴置さんとそんな話をしていると、皇の奴が私の元へとやってくる。


「よぉ香月。俺もこれからヴァイオリン1だ。せいぜいよろしく頼む」

「はいはい。どうもどうも」


 何故か私に敵意むき出しの皇。

 これが好き好き大好き反応であることを私はゲームで分かってはいる。

 分かっているが理解はできない。

 なんでこういう小学生男子みたいな真似しかできないんだろ。はぁ……。


 皇のヘイトは目下私に向いている。水無月さんに全員任せるわけにもいかないし、これがちょうど良いのかもしれないと私は思っている。

 思ってはいるが、しかしいざ皇の好意と言えないような行動の矛先になってみると、辟易してしまう。


「これで、黒瀬くん、浅神くんに続いて3人目かー。オケ部もだんだん人が揃ってきたね」


 鈴置さんが小さい声でそう言う。


「うん……でもどうせなら女の子に増えて欲しかったなぁ」


 私の一言に鈴置さんが「わかりみ~」と返した。




   ∬



 部活終了後、私と神奈川さんはキーネン家へ向かおうと思ったのだが……帰り際にキーネンに呼び止められた。


「今日は俺の車に乗っていけ」

「なんでさ!?」

「水無月と二人だけというのもなんでな……」

「水無月さん乗ってくの?」

「あぁ……さきほどからお付きのメイドとして爺やと共に控えている」

「でも手狭じゃない? 前に天羽さんと3人で乗らせて貰った時もギリだったし……」

「構わんと俺が言っているんだ。そんなことは気にするな」

「ふーん実は女の子とぎゅうぎゅう詰めになるのが好きだったり?」

「ば、ばかなことを言うな……ならば良い! お前たちは電車で来い!」


 それだけ言うとキーネンは足早に帰り始めてしまった。


「うそうそ冗談冗談! 乗ってくってばー」

「もう香月さん! 斎藤くんにそういうのはやめてあげて」

「はぁい」


 神奈川さんに言われ舌を出して返事をする私。

 そして私達は急いでキーネンを追った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る