73 ウェディング
メイクさんやスタイリストさんに連行された先で、私達二人はがっつりとメイクした上でウェディングドレスを着させられた。まさかこんなことになるは思っていなかったので、心の準備がまるでできていない。
「似合ってるわよ香月さん」
「いやいやいやいや。水無月さんこそ似合ってるけど、そうじゃなくて!」
私、こんな事になるなんて聞いてないってば!
お父さん辺りに言ったら飛んできて写真撮影するだろうけど、まさか花嫁のモデルになるだなんて……。
「いい加減、観念なさいな。言われた通りにニコニコと笑っていればすぐに終わるわよ」
「そ、それはそうだけど……!」
1万回ループしている中にまるで何度も結婚式があったかのように振る舞う水無月さん。
私はそこまで肝が座っておらず、どうしてもわたわたとしてしまう。
おどおどしていると鴻上さんがやってきた。
「あっら~良いじゃない良いじゃな~い。さぁ行くわよ!」
そう言われて、チャペルへと戻る私達二人。
水無月さんから順番に撮影されていく。
モデルの経験なんてこれまでの人生で一度たりともない。
ましてやウェディングドレスを着てなんてあるわけない。
私の心臓は今にも爆発してしまいそうだった。
「良いわよ良い~。香月ちゃんはきっとしたお顔も可愛いけど、もうちょっとリラックスして~」
そう言われても緊張してそれどころではない。
私は懸命に作り笑いをした。
「は~い。それじゃ一旦休憩ね~」
言われ、私はどっと疲れが出た。
花嫁用に用意された椅子に座ると、同じく座った水無月さんへと声をかける。
「水無月さん……私もうダメ……」
「もう……大丈夫、香月さん?」
「うーんダメ……ダメってばダメ……」
馬鹿みたいにダメだけを繰り返す人形となった私を、水無月さんは呆れた様子で笑う。
そんなことをしていると、休憩が終わってしまった。
「はーい。それじゃ男性モデルさんご入場~」
パンパンパンと3回可愛らしく手を叩く鴻上さん。
そして相手役の男性モデルがやってきた……のだが。
「げぇ……黒瀬と浅神!? あんたらなんでこんなとこいるの!??」
「おう。香月」
「よぉ香月。奇遇だな」
なんで……どうしてこうなったああああああああああ!?
ゲームではこんなイベントはない……そもそも裏統制新聞を入手できる機会がないのだから、ゲームで未名望がこんなバイトに応募することは絶対にないのだ。
にも関わらず、こんな状態が作り出されてしまっていることに驚愕を禁じえない。
「ゲ、ゲームではこんなこと……」
「ん? ゲームがどうかしたのか?」
「ううん、なんでもない。それより浅神! なんでこんな仕事引き受けてんの!?」
「……香月も俺がここの厨房でバイトしてたの知ってるだろ?
その料理長の山鳥さんに頼まれてな……」
まさか裏統制新聞ルート以外にそんな受注ルートがあったなんて……!
「じゃあ黒瀬は!?」
「いや、俺はあるアプリで知って……ってかお前も知ってんだろ。裏統制新聞」
途中から私の耳元で囁くように言う黒瀬。
浅神は知らないようだったし、隠したいのだろう。
ゲームでは無論、黒瀬が裏統制新聞ユーザーなんて事は一度足りとも出てこない事実だ。
抜け穴を知っていたことからもしかしてと思ってはいたのだが……。
「だーもう、二人共オケ部行ってると思ってた!」
「だいぶ前に頼まれた仕事だからな……」
「結構前に申し込んだ仕事だからなぁ。ほんとだったらオケ部にいたぞ」
二人共オケ部に出られないのはそれはそれで悪いと思っているようで苦い顔をする。
「あらあらあら、みんなお友達なのー? 羨ましいわーこんなイケメン二人と知り合いな・ん・て! お話も良いけどお仕事よ、さぁさぁ撮るわよ~」
鴻上さんがそう宣言し、指示通りに黒瀬が水無月さんと写真を撮られ始める。
そしてそれが終わると、私が浅神と写真を取られまくった。
しかし、困惑こそすれど、緊張はなくなっていた。
本当だったなら相手が現れてより一層緊張してしまう場面かもしれない。
……だって私、こいつらに微塵も興味ないんだもの。
むしろ二人が来てくれて助かったまである。
私は作り笑顔でなんとか撮影を乗り切った。
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