69 当選金の使い道
「親御さんへは……?」
「言えるわけないよ!」
「そう……」
一夜明け、私は金曜の夜から全く寝られないままに休日を過ごしていた。
現在時刻は朝8時半頃。
私はベッドの上で水無月さんと通話をしていた。
「とにかく落ち着いて、番号くじの方はもう確認したんでしょう?」
「うんうん。家に帰ってもう1回机から出して確認したけど、やっぱり6本とも当選で間違いなかったよ……」
「そう……それは良かったわ」
水無月さんは安心するようにそう言うと、続けざまに言った。
「それじゃあ、明日親御さんと一緒に受け取りに行ったら良いと思う。
それから現在募金で集まっている分を引いた差額を――3000万円を募金にお願い。
それから――」
「ちょっと待った! 3000万だけでいいの?!」
「えぇ……天羽さんが1億の小切手を入れてくれたもの。
それに斎藤くんの1500万と、他生徒から500万あったわ。
残るは3000万よ」
「へ、へぇ……」
私は前回の生徒会活動で経理を担当せず募金活動を行っていた為、いまいくら集まっているかを知らなかったのだ。天羽さん本当に1億も入れてくれたのか。
「天羽さん様々ね。これで無事に
朱音というのはきっと浅神の妹ちゃんの名前だ。
水無月さんは電話越しでも分かるくらいとても嬉しそうだ。
「水無月さんって、あまり驚いてないよね……?」
「驚いているわよ。
香月さん、貴方こそ新たな因果を掴む者よ。間違いないわ。
終わらないループの中でこんな素晴らしい結果を引き出せたのは明らかに貴方のおかげなんだから、少しは自信を持って頂戴」
「そ、そっか……水無月さんは1万回以上ループしてるんだものね」
うん。水無月さんの言う通りだ。私は自信を持って良いはずなんだ。
たかだか60億円だ。桜屋さん
ビビりすぎってものだろう。
「でも、やっぱ怖い……!
だって60億だよ60億。いち女子高生が持って良い金額じゃないってば!」
「もう……気持ちは分かるけど……親御さんに話せそう?」
「むーりーーーーーーー。水無月さん説明変わってーー」
ごろごろとベッドの上を転がって駄々をこねる私。
それに水無月さんが「しっかりしなさい!」と甘く一喝する。
「それから、神奈川さんはどうにかなりそうだから置いておくとして、会社設立の資本金として1億円貰うわよ」
「うん、わかってるけど、1億だけでいいの?」
「えぇ……1億もあれば十分会社を回していけると思う。
事業内容だけど、世界への日本文化の発信ってことになるわ。
手始めに外国人向けのツアー主催なんかをやるつもりよ」
「へえーなんか大変そうだね。頑張って!」
「香月さん。貴方も副社長としてやってもらうって言ったはずだけど?」
「えぇ……! だって私そんなのやったことないし!」
「それは私がおいおい教えていくわよ」
そうして桜屋を助けるための会社設立の話が進み、私たちは番号くじの当選金の使い道を話し終えたかに思えた……のだが。
「それから、夏季留学の件だけど香月さんに留学費用を負担して貰いたいの」
「夏季留学……?」
「あら……ゲームでは無かったの?」
「いや……ちょっと待って、もしかしてイヴンに関わるつもりなの水無月さん!?」
「えぇ、そうよ」
「なんでさ! あいつは放っておけばいいだけだよ。無闇矢鱈に関わると好感度爆上げしてきてとんでもない目に合うんだからね! 絶対関わったらダメだよ」
私は知っている。イヴンは本国で跡目争いに巻き込まれる事になるのだ。
そして夏季留学でサウジアラビアへと向かった先で、未名望はとんでもない目に合う事になる。
これはイヴンルートを攻略するためには必須条件のイベントだ。
だがしかし、イヴンを攻略する必要性がないというのに、なぜ……?
「香月さん、跡目争いについては知っているようね?」
「うん。だから絶対関わったらダメだってば」
「そう……でも貴方はたぶん、跡目争いにイヴンくんが勝たなかった場合の事を知らない……そんなところかしら?」
「えと……うん……イヴンバッドエンドでも、イヴンは日本で割りと楽しくやってくみたいな感じだったし……!」
「彼にバッドエンドなんてものがあるのね……私はそれは知らないのだけれど」
イヴンバッドエンドでは、イヴンは高校卒業後に日本のコンビニ店員として働く事になったはずだ。未名望とはとても付き合うだけの余裕はなく、二人の道は分かたれたまま終わることになる。未名望は誰にも攻略されることなく、私的にはハッピーエンドの内の一つだ。
「イヴンくんが跡目争いに勝たなかった場合、ある女の子が酷い目に合うことになるのよ。
それはイヴンくんの従姉妹にあたる女の子で名をサラというわ。
彼女も水無月荘の一員だったのよ。
だからイヴンくんの気持ちを真っ向から受けないにしても、彼には絶対に跡目争いに買ってもらう必要性があるの。
だから力を貸して頂戴、香月さん!」
水無月さんはそうはっきりと言い切った。
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