第一章 決意と出会い②
故郷とは
「ほっほっ、
「ご
彼こそが、お母様を治すための希望の光であり──時が戻る前、私を支えてくれた友人だった。
「ふむ。わしの知り合いでも、
「ええ、お初にお目にかかります。ナタリー・ペティグリューと申します」
「おや、ペティグリュー家、貴族の方とは……」
この時代でお医者様と出会うのは、〝はじめまして〟になる。当たり前の事実に、少し
「……身分など、お気になさらないで下さいませ。気軽にナタリーと」
「ほっほっほ。ここまで、わしに気を
「ふふ、決して口止めなんて意図はございませんわ」
「そうか。ではお言葉に甘えて……ナタリー
話し口調は
「……
「ほう……?」
「その草を
お医者様の視線が先ほどよりも鋭くなった。それもそうだろう、未来で聞いた話をもとに提案したのだから。公爵家に嫁いでから数年後、彼が涙露草を用いて、刻点病を治療する薬を作った。マイナーな薬草のため、流通があまりなく入手が困難で完成が
(こんなに身近にあったもので、お母様が救えたことに……いいえ、あの時はもう仕方なかったのだわ)
ナタリーの提案から、一向に口を開かないお医者様に、お
(……どうしましょう)
ナタリーが暗く、
「ほっほ。そんなに泣きそうな顔をしなさんな。わしが
「……いえ、私こそ。
「そうじゃのぅ。確かに、どうしてわしがその草を欲しがっていることを知っているのか、疑問はあった」
ナタリーが俯きそうな顔をあげて、お医者様を見れば。そこにはいつもの優しい彼の顔があった。
「でも、ナタリー嬢がわしを
「……」
「きっと、知っている訳を知りたいと言っても、ナタリー嬢を困らせてしまいそうだからのぅ。支援は願ってもないことじゃ、ぜひお願いしたい」
「……っ。お医者様、本当にありがとうございます」
「ほっほっ、美人さんを泣かせてしまうなんて、わしの信条に反するからのぅ」
(……本当によかった)
一時は暗雲が立ち込めていたが、彼の
「ああ、そういえば。わしの名を言うておらんかったな、失敬。わしはフランツという。ただのフランツじゃ」
「フランツ様、このご恩は忘れませんわ」
「おや、様なんてこそばゆいのう。まだ恩は売っておらんよ。ナタリー嬢のため、薬を作らないといけないのう」
お医者様──もといフランツの言葉は、ナタリーの心を確かに明るく照らしてくれる。彼の
「聞くまでもないと思うが、ナタリー嬢は刻点病に効く薬がほしい、で合ってるかのぅ」
「はい、そうです。お母様の治療に」
「なるほどのぅ、自分ではなくご家族のためであったか」
実は刻点病は、薬でしか治らない。ペティグリュー家の
「フランツ。なにやら、
フランツと今後の話を進めている中。
「ほっほっほっ、起きられましたか、エドワード様」
「……ああ、ゆっくり
「い、いえ」
その男性をしっかりと見たナタリーは目を大きく見開く。なぜなら。
(どうして、第二王子がここにいるの!?)
自国で太陽のようと称される
「ごほっ、ああ。レディ、どうやら君は僕のことをよく知っているようですね?」
「国の太陽にご
「ああ、そういった
「はあ。このわしとお前さんがのう?」
「けほっ、もう長い付き合いじゃないですか。ふふ」
(さっきから、エドワード王子は
フリックシュタインの第一王子が病弱ということは、有名だった。そして重い病のため、
時が戻る前は、第一王子が戦争の前に病で
「うーむ。しかし全く、少し
「ええ。ご、ほ……フランツのおかげで、だいぶましにはなりましたが。何が原因なのでしょう」
「その、少しいいですか」
ナタリーが声をあげたことにより、二人の視線がこちらへ向く。エドワード王子の
「私が……エドワード様のお
「君が……?」
室内の温度がヒヤリと下がった気がする。どこからか見られているような、二人以外の視線も感じた気がしてナタリーはぞっとする。でしゃばり過ぎたかもしれない……もちろん、お
「これこれ、〝友人として〟とさっき言ったじゃろう、そんな怖い顔をするでない」
「ああ。ご、ほっ、失敬。怖がらせるつもりはなかったのですが、周りをやすやすと信じられる
「まあのぅ。そんな不便なとこにおるから、こんな遠くまでわざわざ医者を見つけに来たわけじゃからのう?」
「フランツ、それは秘密の話ですよ」
「ほっほ。そうじゃったか、もう
「君が、ペティグリューの……」
先ほどよりは、
「私の魔法に不安を感じられるのはもっともです……ですから、無理にとは言いません」
「……」
「なにより、私の魔法を使ったからといって治る保証もございませんので……」
「ごほっ、いや。正直、体調の悪さには
「っ! はい」
王族に対する
「あ、仰向けで、お願いします」
「……わかりました」
「わしも
「怯えてなどおりません! レディ、よろしくお願いします」
ナタリーの
(エドワード王子は毒におかされていたのだわ!)
「終わりました」
数十分ほどの魔法による処置をし、エドワードの様子を
「……
自分の体調を今一度
「レディ、先ほどは疑ってしまって……本当に申し訳ございません」
「いえ、そんな」
「ほんとうじゃ!」
フランツに対して、冷たい視線を送り──エドワードはそのままナタリーの目の前で
「家名だけでなくお名前を
「えっと、ナタリーと申します。その、エドワード様お立ちになってくださいませ」
「ふふ、お
「え、ええ。構いませんが」
あまりの積極的な態度にナタリーはたじたじになる。しかしそんなナタリーに
「ナタリー、少し失礼しますね」
「えっ?」
「王家のペンダントをあなたに」
ナタリーよりも背の高い彼は、首に手を回し、カチリと何かをつける。首元に金属のヒヤリとした冷たさを感じた。
「あの、これは……」
「あなたに持っていてほしくて。あわよくば、ずっとつけてほしいと、そう思っていますよ」
「その、エドワード
「〝殿下〟は不要ですよ。ナタリー」
いつも
「ここ数年、ずっと不調で身体を動かすにも苦労していた自分がウソみたいだ。本当に感謝します」
「そ、それはよかったです」
「ええ、ナタリーのおかげですね。そういえば、しきりに僕のお腹の上に手を置いていましたが……もしかして何か意味がありましたか?」
「……その、エドワード様、常に食べているものなどはございますか」
「食べているもの。まあ、いくつかありますが」
「どれがそれなのかは、わかりませんが。エドワード様の症状は毒によるものです」
「……ほう?」
今日一日で見たこともないほど──
「……どうやら、
「は、はい。お気をつけて」
「ええ……
エドワードの「影」という言葉に反応したのか、今まで見えていなかった場所から
「……ナタリー、また会いましょう」
エドワードは去り
(も、もしかして、私……やらかしちゃったかしら)
確かエドワード王子は、ユリウスと同じくナタリーより四つ年上だったはずだ。しかし去り際に見た、彼の表情は
「本当に、
「い、いえ」
「しかもわしにも言わずに、あんな大層な騎士が護衛におったなんてのう。まったく困った
あんなに守りが
「ほうほう。そんなものを、ナタリー
「フランツ様、ど、どうしましょう」
「いや~わしには、どうにもできんが。まあ……そんなけったいなものを
「そ、そうですか」
「わしには、ナタリー嬢を
「フランツ様、今なんと」
フランツは「ほっほ」と笑ってごまかそうとしているが、完全に
「
「そこまで酷く……。本当に、
「うむうむ。まあ一見は、あやつが体調が悪いなんて気づかんじゃろうがのう。やせ
彼の表情は、エドワードのことを
「長い話をしてしもうたのぅ。
「いえ。フランツ様がエドワード様を思う気持ち、
「ほっ、そう言われると、照れてしまうわい。ああ、そうじゃ。
「っ! ありがとうございます」
「いいんじゃ、やっと一人、
ナタリーはフランツにお礼を述べ、帰宅の準備をする。
(よかった……! これできっとお母様は大丈夫だわ……!)
お母様の病に対する解決の糸口が見え、ナタリーはようやく安心感を覚えるのであった。
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