第一章 決意と出会い①
ナタリーの悪夢は、自国・フリックシュタインが敵国に
ペティグリュー家は敵国との国境に近い領地であったため、戦争に向けて準備をするゆとりもなく攻め込まれた。戦火によって病が悪化したお母様が
同盟国の援軍──
(漆黒の騎士に、自国の貴族の令嬢を
王族は、貴族は、
『お初にお目にかかります。ナタリー・ペティグリューと申します』
『……』
『これから、妻としてファングレー公爵家へ忠誠と愛を
『……俺は
『えっ、ユ、ユリウ』
『名前を呼ぶことは許可していない。そちらの国の
『申し訳ございません……閣下』
同盟国へ献上、ひいてはファングレー
(さすがに……冗談よね?)
ナタリーが、苦笑を
『あらぁ? 能無しで、男に取り入ることしかできないご
『……お初にお目に』
『あたくし、発言を許した覚えはありませんことよ。身の
『も、申し訳ございません』
『能無しに
部屋に戻っても、そこにはただボロボロのパンが転がっているだけ。ナタリーの味方は
『……うう』
(……大丈夫かしら?)
ユリウスは共に
(役に立たないから、公爵家で認められないのだわ……少しでも疲労や傷を癒せれば)
ペティグリュー家は
『……』
『……ふぅ』
魔法を使用したあとは、少しばかりユリウスの表情が
『ついに、家の資金にまで手をつけたのか』
『……え?』
『とぼけるな、宝石やアクセサリーを買い
『わ、わたしは、まったく……』
『この
まさに針のむしろ状態だった。決してナタリーは、ユリウスの資産に手をつけてはいなかったが、誰もそれを証明するものは現れない。やつれたナタリーの様子に、わざと悲しげに演じるユリウスの母が『まったく……女主人がしっかりしないといけないのに……。あたくしが今後しっかりしますからね』と堂々と言う。ひと目見れば宝石をつけておらず、
そうして月日が流れ二年が
『おめでとうございます、奥様。元気な男の子ですぞ!』
『ありがとう。この子が……』
出産は苦痛、大変さを
ユリウスとは
(さすがに公爵家の
そんなふうに、一人我が子の名前を考えてうきうきしていたら、ナタリーの部屋の扉がガチャっと不作法に開けられた。
『ふんっ、ちょっといいかしら?』
『お、お母さ』
『あなたに母と呼ばれる筋合いはありません』
『その、腕の中の子は……』
『ええ、やっと義務を果たしてくれましたので、あたくしがこの子を立派に育てますわ。だから、お前はこの子に近づかないように』
『そ、そんな……!』
産後の
そんなナタリーを心配してくれるのは、いつも
『のう。奥様、
『ごほっごほっ、お医者様。いいの。もうどうにも……』
『老いぼれは、薬を処方することしかできず……きっとこのお部屋にいることが、病を長引かせておりますから。たまには散歩してみてはいかがですかのぅ』
ナタリーは出産後の肥立ちが悪かった。体調が回復せず、薬を飲んでも治らない
『そうね……久しぶりに歩こうかしら』
長年の友にもなりつつあったお医者様の
『あ、悪い
ユリウスに似た
『えっと……』
『ふふふ、やんちゃでございますこと。教えましたでしょう? アレは、仮にもあなたのお母様なのですよ』
『でも~僕、あんなの……』
小さなユリウスは、きっとナタリーを悪とする教育を受けているのだろう。勝ち
『そう……』
反論も、抵抗心も
ふと、
『親愛なるお
鞄の中へ不作法に入れてしまい申し訳ございません。別れの日に、
愛を込めて ミーナ』
(会いたいわ、お父様、お母様、ミーナ)
ナタリーの
(身分なんていらない。あの故郷に帰りたい。そこで死のうが関係ない、大切な人たちが待つあそこへ)
そう思えば、ナタリーの行動は早かった。
十数年も住めば、覚えたくなくても
『……無礼だな、なんだ』
『……』
室内には二人の存在。一人は目当ての公爵でもう一人は、きちっとした礼服を着込んだジュニアだ。ジュニアは、会うことがなかった数年の間にずいぶんとユリウスの
『その……っ!』
『はぁ、まあちょうどいい。お前のことについて苦情がきている。改めるように今から伝えよう』
『私の話を!』
ユリウスの口から出たのは、ナタリーの行動を制限する言葉だった。栄養失調ぎみだったナタリーの声を
『ほら、今後の生活に関する予定表だ。お前の意思など
『……死んだほうがましですわ』
だからそう言って、
● ● ●
(あれほど切望していた──お父様とお母様の
朝食を食べるナタリーの
(だからこそ、お母様の不調と戦争をどうにかしなければ──いけないわね!)
朝食を終えて、自室に戻れば……
(戦争の
王族もナタリーに対して
お母様の不調を解消したら、過去に……今となっては未来に参加する王家
ノックをすれば、お母様が「あら? 誰かしら」と返事をする。早速、お母様の体調を
「ナタリーです。お母様、入ってもよろしいでしょうか?」
「まぁまぁ! ナタリーね。ええ、入ってちょうだい」
木製のしっかりしたドアを開ければ、シックな調度品に囲まれたお母様の部屋が見える。そしてその中央にあるベッドに、お母様は横になっていた。声は元気そうだったのに、顔色が少し悪い。ベッド近くの
「お母様、お
「あら、心配してきてくれたの? ふふ、大丈夫よ。きっと季節の変わり目で、
「それでもっ。私はお母様のお身体が心配です」
(やっぱり……
刻点病は、
「ほら、
「そう、ですか?」
「ええ。あら、もう……無理をさせてしまったわね。私ったらだめね」
「そ、そんな」
笑うために頬を動かしたはずなのに、私の顔を見たお母様は──ひどく悲しそうで。そのままぎゅっと
「いいこ、いいこ。ナタリーはよく
「……っ」
「よく考えたら、こうしてしっかりと話すのは久しぶりに感じるわね」
「……ぅ、ひっく」
「ふふ、好きなだけ、ね。人はゆっくり、立ち止まることも大切だから」
お母様の
「お母様。その、みっともない姿を……」
「いいえ、ナタリー。そんなことないわ。お父様でも私でも、
「……ありがとうございます」
お母様は、私の目の下あたりを布で
(この病を、絶対にどうにかしなければ)
大好きなお母様を二度と失わぬように──ナタリーは、部屋から出てミーナに外出する手配を
(刻点病は確かにまだあまり知られていないけど……今の私はその
馬車に乗って、目的の場所を伝える。ペティグリュー領から少し
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