第一章 決意と出会い③
それはフランツの
「お嬢様っ。どうやら、
「……そんな」
(ここに盗賊がいるなんて初耳だわ……もしかして本来の運命とは違う行動をしたから?)
気づけば
「へっ、今日はツイてるぜ! こんなお貴族様の馬車がノロノロと現れたからなあ!」
「カシラァ! どうやら、この馬車の中にはお貴族様の女がいるようですぜぇ」
「そいつはいい! 貴族の女は
「へへ、上玉だったらオイラたちにも、味見させてくれねえですかい」
おぞましい会話が聞こえる。ナタリーはどうすればこの危機から
(──このままではいけない……まだ捕まると確定してないのだから気をしっかりと持たないと!)
近づく盗賊たちに、御者の悲鳴は大きくなるばかり。ナタリーが
──パリンッ!
窓ガラスが
「うひょ~かわい子ちゃんはっけ~ん」
盗賊は
(いえ! まだ
少しだけでも
ナタリーは
扉の前にいた盗賊は、まさか開くとは思っていなかったようで扉に顔面を強打する。その隙をついて飛び出そうとして、ナタリーは扉の前に変わらず立つ盗賊の姿に気がついた。
「ってぇな……
「……っ! どいてください!」
必死に声を上げるナタリーになど構わず、盗賊はにやりと笑って馬車の扉に手をかけた。
(私は……なんて、無力なの)
甘い考えだが、自分が
──ヒュンッ。
何かが風を切る大きな音と共に、馬車の扉に手をかけていた盗賊が
「……危ないから、開けるな」
ナタリーの前にある扉が、再び閉まるのと同時に──聞きなれた低い声が耳に入る。夕闇よりも暗い
「……っ」
そこにいたのは紛れもない──漆黒の
(……まさか、こんなところで)
「大丈夫、大丈夫だから……きっと大丈夫」
念仏でも唱えるかのように、自分を落ち着かせるために言葉を
どれくらいの時間が
「……盗賊はみな
ナタリーが馬車の中でじっと待っているうちに、
「え、ええ。だ、だいじょうぶ、です、わ」
震える手をどうにか動かして馬車の扉を開けるが、言葉を発しようにも、口がおぼつかない。手の震えもどんどん酷くなる。以前ユリウスに
「その……ああ、ありがとう、ございま、す。お、お礼など……」
「いや……別に」
「え?」
バサッと音が鳴ったかと思うと……目の前が真っ黒になり、ナタリーは自身の
「どうやら、ご
「え! その団員ってもしかして、副団長である俺も
「当たり前だ、これは命令だからな」
「横暴だな~ユリウス、そんなこと言うとモテな……あ~はいはい! 行きますってば」
窓の外からはユリウスとは別の──軽快な声が響いてくる。そして身体を包み込む衣服から、ユリウスが黒いマントのような外套を着ていたことを思い出す。それを
「窓の外はあまり見ない方がいい。騎士団の者を数名、
「は、はい?」
ナタリーの疑問の声は届いていないのか、コツコツと馬を歩かせて「おい」と御者に声をかける。
「これからこの道を使うときは、気をつけろ。ここ最近ならず者が出現することで有名だからな。わかったな?」
「かしこまりましたぁぁぁ!」
ユリウスに
「え、ええ」
まだ自分の心臓が
「いや~! あのお
「副団長……あまり、そう言いますと……」
「え~? ユリウスがいない今だからこそ、だろう? それにしても、ユリウスが〝令嬢〟って単語を言えるってことに……俺は感動しちゃったよ~」
「ふ、副団長……」
ナタリーを
(ずっと冷たい態度の閣下が、私を助けるなんて訳が分からないわ。そもそも今の時代の閣下は私を知るはずもないし。となると、騎士団長とまで地位が高いのだから、
そうしてさらに混乱が深まるうちに、馬車がゆっくりと止まり
「
「……へ?」
開いた扉からは、いつもなら
「
「あ! ご挨拶ありがとうございます。私はナタリー・ペティグリューと申します」
目の前のマルクは、ナタリーを見るとわかりやすく
「はあ、団長、もったいない。まあ、無事にお送りできて幸いです」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、
ウィンクをしてくるマルクからは、
「その、これを──」
「ん? あぁ、団長の服ですか……!
「え? えっとそれは申し訳ないと言いますか。マルク様から……」
「お、俺!? いや~それはな~。たぶん団長も、直接返してもらった方がきっと
「?」
マルクがいったい何を言わんとしているのか、見当がつかないが……どうやら何か問題があるらしい。そうしたら、どうしようか……と
「あ! そろそろ俺らは帰りますね!
「え、ちょっと!」
「おじょーうさま──!」
屋敷からは心配するミーナの大きな声が聞こえた。その声を合図に使用人だけでなく、お父様とお母様も
「と、父さんは、まだナタリーの
「はいはい、あなた。行きますよ」
そんな二人の会話を背に自室に戻ったナタリーは、
「わかりました!」
キラキラと目を輝かせるミーナが、質問したくて仕方ない──という欲求を必死に
再び起きたら、実はすべて夢だった──なんてことはなく。死んでから目覚めた日をきちんと
「そ、そう。ありがとうね」
「ええ! お
「あ、あはは」
「
ミーナはナタリーの
(ミーナがどうしてか嬉しそうだし、まあ、いいかしら)
説明が
「ま、まあ、親切はありがたいがっ。絶対ナタリーに
「はあ。ナタリーは、もう十八歳ですよ。
「恋の一つや二つ!? やだ~父さんはやだよう~」
お母様の大きなため息が聞こえた。ナタリーは
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