第28話 「神奈月に教えてもらえ」

 放課後。

 例によって教室に残り、B級グルメフェスティバルのメニューを考える。


「完全に私情でしかないけど、コロッケパンは絶対に入れたいよね」

「完全に私情だな。まあ、テーマには合ってるしいいんじゃない?」


 そもそもB級グルメフェスティバルという企画を思いつくきっかけになったのが、俺が屋上で分けてあげたコロッケパンなのだ。

 これは外せないだろう。


「あとは……平坂くんが言ってたのって何だっけ?」

「えーっと、ソースカツ丼かな?」

「そうそれ! ソースカツ丼っと」


 神奈月さんは、ルーズリーフにどんどんメニューを書き込んでいく。

 ここまでさんざんB級グルメB級グルメと言っているけど、その定義は非常にあいまいだ。

 庶民的な安価で美味しい料理というのが意味らしいけど、ご当地グルメとの境目も非常にあいまいだ。

 俺たちとしては、美味しくてB級感が漂ってれば何でもよくない? と範囲を大幅に広げてメニューを選択していく。


「ふう、こんな感じかな」


 取捨選択が済み、きれいにまとめたメニューを見て神奈月さんが言う。

 コロッケパンやソースカツ丼に加えて、焼きそばなどソース系のメニューが多い。

 これはソースが大量に必要だな。

 もちろん、ソース味じゃないメニューもあるけど。


「いいんじゃない? あとはひとつ思いついたことがあるんだけど」

「何?」

「お弁当の出前とかどうかなー? と思って。ただ教室を店舗にして売り出すだけより、売り上げが伸びるんじゃないかなーと」


 文化祭の日は、模擬店で昼食を取る人がほとんどだ。

 でも模擬店で昼食を取るということは、模擬店が営業しているということ。

 誰ぞの構文みたくなってしまったけど、要はお昼の時間に他のクラスを回っている時間がない人もいるのだ。

 SNSでクラス企画の公式アカウントを作ってDMで注文を取れば、難しい出前システムなど考えなくていいし。


「どうかな?」

「すごく良いと思う! ぜひやろうよ!」


 俺の提案が受け入れられたところで、ガラガラと教室の引き戸が開いた。

 そして芭蕉の厄介ファン……じゃなかった。メイドあほ……でもなかった。

 夏原先生が入ってくる。


「お疲れ~。進捗はどうだ?」

「企画の大筋はできました。あとは材料の仕入れ方法とか量などを詰めていく感じです」

「どれどれ……。おっ、美味しそうなメニューが並んでるな。2人とも助かるよ。ありがとう」

「とんでもないです」

「まあ、ぼちぼちテスト勉強なんかもしながらな。特に平坂はしっかりやるように」

「まあ勉強はしますけどね」

「家に帰ってからでも、神奈月に教えてもらえ」

「ちょ! 何言ってるんですか!」


 考えてみれば、学校側は生徒の住所とか把握してるもんな。

 神奈月さんも引っ越した時に、学校へ届けを出しているはずだ。

 担任の夏原先生が俺と神奈月さんが隣だと知っているのは、まったく不自然なことではない。


 神奈月さんはといえば、唐突ないじりに固まっている。

 まったくこの先生は……。


「とにかく頑張れよ~」


 そう言い残して、夏原先生は教室を後にする。

 数秒後、ようやく神奈月さんが息を吹き返した。

 その顔がほんのり赤いのは、慌てたからか、息を止めていたからか。

 まあ、どっちもだろう。

 それにしても、文化祭と同時にテストも近づいていたんだったな。


「神奈月さんはテスト勉強とかするの?」

「もちろん。ちょうど今日から始めようと思ってたよ」


 そりゃそうだよな。

 入学以来ずっと学年トップをキープしている彼女だけど、これでノー勉とか言われたら恐ろしいったらありゃしない。


「平坂くんは?」

「俺は……まあぼちぼち」

「じゃあさ、一緒にテスト勉強しようよ。分からないところを教え合ったりして」

「何か俺が教えてもらうばっかりになりそうだけど……。一緒に勉強できるなら、こちらとしてはすごくありがたいよ」

「決まりだね」


 家に帰ったらテスト勉強か。

 勉強自体はそんなに好きじゃないんだけど、神奈月さんとなら少し楽しみかもしれないと思うのだった。

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