第27話 「成長の朝ごはん」
「完全復活!」
月曜日の朝。
神奈月さんは俺の部屋に来るなり、元気にVサインを出した。
念のために昨日のバイトも休んだことで、完璧に回復できたようだ。
「本当にありがとう」
神奈月さんがぺこりと頭を下げる。
「おかげさまで元気になりました!」
「何よりなにより。もう準備終わったの?」
家を出るまでには、まだまだ時間がある。
お弁当もまだ作り途中だし、俺の家の洗濯機は絶賛お仕事中だ。
朝ごはんにはまだ手も付けていない。
「終わったよ~。この週末でたっくさん寝たからか、かなり早く目が覚めちゃったの」
「なるほどね。ごめん、まだ朝ごはんできてないや」
「あ、じゃあ!」
神奈月さんは何かを思いついたようで、ビシッと手を挙げる。
うん、今までにないくらい元気だな。
買い物に出かけたりバイトをしたりで、ひたすら休む週末って何だかんだでなかったもんな。
ずっとバッテリー70%くらいだったのが、風邪を引いたおかげで100%まで充電されたんだろう。
辛かっただろうけど、休めて逆にプラスになった面もあるのかもしれない。
「私が朝ごはんを作るよ! 材料は私の家の冷蔵庫にあるし、この部屋のキッチンは平坂くんがお弁当を作ってくれるのに使うと思うから……。準備ができたら私の部屋で朝ご飯ってどう?」
「おー、いいね。助かる」
「とんでもない。よーし、成長の朝ごはんを見せちゃうよ」
神奈月さんは腕まくりをして、一旦俺の部屋を後にする。
成長の朝ごはんかぁ。
楽しみだな。
※ ※ ※ ※
およそ30分後。
神奈月さんの部屋を訪れると、テーブルの上には美味しそうな朝食が並んでいた。
バターが塗られたトースト。
見るからにふわふわとろとろのスクランブルエッグ。
程よく焦げ目のついたソーセージ。
刻んだ野菜を入れたコンソメスープ。
初めは卵すら割れなかったんだから、本当に成長の朝ごはんだ。
「いただきます」
「いただきます。さあ、食べてみて」
「うん」
まずはスクランブルエッグを一口。
見た目通りのふわとろ食感。
でも今までのスクランブルエッグとはちょっと違う。
よりクリーミーで、少し甘味を感じる。
これは……
「生クリーム入れた?」
「正解!」
「やっぱり。めっちゃ美味しいよ」
「良かったぁ」
神奈月さんは、心底嬉しそうに胸の前で手を合わせた。
かわいい。
ソーセージもパリッと美味しく焼けているし、コンソメスープは野菜の甘味が溶けだしてほっとする味だ。
見た目にも、そして味にも。
本当に成長の朝ごはんだな。
「うん。美味しい」
「何回でも言って」
俺が美味しいという度に、神奈月さんは笑顔になってくれる。
かわいい。
何回でも言ってやる。
「美味しいよ」
「えへへ。ありがと」
「今日は文化祭関連では何かするの?」
「うーんとね、メニューを考えないといけなくて。あとはどれくらいの集客を見込んでどれくらいの材料を仕入れるとか、会場の設置はどうするかとか……」
「決め事たくさんだね。いよいよ忙しくなりそう」
「ここからが本番だよ~」
日南さんが言っていた。
今年の神奈月さんは、文化祭の準備を楽しんでいると。
俺もそう思う。
目の前で朝ご飯を食べながら、文化祭に思いをはせる彼女はとても楽しそうだ。
だから俺も、彼女を全力でサポートしたいと思うのだった。
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