第25話 「すやぁ~すやぁ~」
「それじゃあまた月曜日ね~!」
「じゃあな~!」
日南さん、それに竜弥と別れて、夜の帰り道を歩き始める。
今日の夜空は雲一つない快晴のようで、いくつも星が瞬いていた。
「くしゅんっ!」
神奈月さんが小さなくしゃみをする。
夜になって一段と冷え込んできたからなぁ。
「ねえねえ、平坂くん」
「何?」
「帰ったらさ、ゲームしようよ?」
「すごろく電鉄?」
「うん! 明日は学校休みだし」
「そうだな~。やるか」
ちなみにゲームを手に入れた日に作ったデータは、神奈月さんの惨敗で最終年の決算を迎えた。
俺と神奈月さん、そして弱めのAIを2体入れてやったのだが、ぶっちぎりの4位だったのだ。
そして新しくプレイ年数50年とかいう途方もないデータを作って始めたのだが、15年目を過ぎた時点で相変わらず最下位は神奈月さんである。
出来るだけキーングボンビーはAIになすりつけるようにして、他にも手加減はしてるんだけどなぁ。
「どうする? 新しくゲームデータ作り直す?」
「あのデータでいいの! 最後には私が逆転してるんだから」
「そりゃ楽しみだな」
「あー! 今鼻で笑ったでしょ!」
神奈月さんが思いっきり頬を膨らませたのが、街灯の灯りに照らされて見える。
かわいい。
負けず嫌いの彼女のことだ。
きっと最下位のままデータを消すのは納得いかないんだろうな。
15分くらい自転車をこいで、アパートへと戻ってきた。
一旦、それぞれ自分の部屋に戻る。
俺は俺で洗濯物を片付けなきゃいけないし、弁当の洗い物もある。
神奈月さんも家事をしなきゃいけないし、後はお互いにシャワーもしたいのだ。
やることが終わったところで、神奈月さんが俺の部屋にやってくる。
「お待たせ~」
「俺もちょうど終わったところだよ~」
今晩の寒さに対応して、神奈月さんの部屋着がもこもこのパーカーになっている。
かわいい。
シャンプーの素敵な香りもするし。
「よ~し、やるぞ~!」
神奈月さんが元気よくコントローラーを握り、ゲームが始まった。
……始まったんだけど。
「むにゃぁ~」
およそ1時間後。
神奈月さんは俺の隣ですっかり眠り始めた。
寒いなかで自転車をこいだし、1週間学校に通い詰めた後だし、疲れたんだろうな。
この状態でプレイしても、余計に借金がかさむだけだ。
「神奈月さ~ん」
「すやぁ~すやぁ~」
「神奈月さん。起きて」
「う~ん。寝てないもん」
「いや、寝てるでしょ」
「私の番……?」
「もうゲームはやめて明日にしよ。ほら、こんなところで寝たら風邪ひくよ」
神奈月さんがうっすら目を開けて、ほんのり頬が赤らんだ顔でこちらを見つめる。
かわいい。
とろんとした顔の破壊力は異次元だ。
「部屋に戻って寝よ。明日は休みなんだし、ゲームは明日できるから」
「う~」
「う~じゃなくて」
「私はまだカレードリア食べれる……もん……」
ダメだ。
完全に脳が寝てる。
まともな会話すらままならない。
それだけ心を許してくれてるのは嬉しいけど、あまりにも無防備な姿にさすがにドキッとする。
「抱っこ……抱っこ……」
うわごとのように呟く神奈月さん。
本気で言ってるわけじゃない……よな?
でもここで寝られたら、それはそれで俺が非常に困る。
「しょうがないか……」
俺はしばらく迷った後、神奈月さんの背中とひざ裏に手を差し込んだ。
そのまま体を浮かせ、お姫様抱っこの状態に移る。
神奈月さんの体温が直に伝わってきて、とても温かい。
心臓がバクバク鳴っているのが、自分で手に取るように分かった。
神奈月さんをベッドに寝かせるため。
そう言い聞かせて、俺は自分の部屋を出た。
「う~」
寒さのせいか、神奈月さんが顔をしかめる。
でも相変わらず眠ったままのようだ。
隣の部屋に入り、またもや少しためらってから、神奈月さんの寝室に入る。
幸いなことに、絶対的に見てはいけないものは置かれていなかった。
「よいしょ」
神奈月さんをベッドに降ろし、掛け布団をかけてあげる。
息を呑むほど美しく整った寝顔。
しかし、少し上がった口角が無防備なかわいさを演出している。
「おやすみ」
俺はそっと声を掛けると、神奈月さんの部屋を後にした。
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