第23話 「B級グルメフェスティバルを開催します!」
文化祭が近づけば、ことあるごとに授業が潰れ文化祭の準備へと回されるものである。
金曜日の4時間目、担任の夏原先生が受け持つ現代文であるこの授業も、文化祭に関する決め事へとあてられることになった。
「前回のLHRで意見を調査したところ、飲食店をやりたいという希望が多く上がりました。2年6組のクラス企画では、飲食店をやるという方向でいいですか?」
神奈月さんが問いかけると、他のみんなは拍手で賛同を表す。
俺は黒板に大きく「飲食店」と記した。
方向性は決まったけど、具体的にどんな店にするかまで今日のうちに決め切りたいところだ。
「どんな飲食店がやりたいか、アイデアがある人は出してください。この時間で決めてしまいたいと思います」
焼きそばや喫茶店、ラーメンなどいろいろな意見が出る。
そのひとつひとつを黒板に書きながら、俺と神奈月さんの提案も黒板に記した。
「B級グルメフェスティバル……何それ?」
前に意見を伝えにきていた日南さんが、黒板の文字を見て首を傾げた。
B級グルメフェスティバルこそ、ラーメン屋で神奈月さんが思いついた案だ。
俺が彼女に分けてあげたコロッケパンが始まりになっていることは言うまでもない。
「カツ丼はカツ丼でもソースカツ丼とか、コロッケパンとか……。結構、文化祭向きだと思うんだよね。そもそものB級グルメの意味って、安くて庶民的で美味しいグルメって意味だし」
「おお~。面白そうかも」
「でしょ」
「うんうんうん」
俺が説明すると、日南さんは何度も頷いた。
神奈月さんの案ではあるけど、俺としてもイチオシのアイデアだ。
あらかた意見が出終わったところで、話し合いは多数決へと移行する。
B級グルメフェスティバルに関しては、神奈月さんがみんなに説明済みだ。
「では……喫茶店がやりたい人は手を挙げてください」
神奈月さんが挙手を募り、俺がその人数を数える。
喫茶店0人。
ラーメン店0人。
メイド喫茶2人。
……って、メイド喫茶に挙げてるの竜弥と夏原先生じゃねえか。
「では、B級グルメを集めたB級グルメフェスティバルが良いと思う人は手を挙げてください」
「えーっと、1、2、3、4……決まっただろ、これ」
さっきメイド喫茶に手を挙げたアホ2人を除いて、全員がこれに手を挙げている。
まさかここまで票を集めるとは思わなかったけど、これは決まったようだ。
「私もこれに投票する」
「俺もだ。俺たちを入れて40人中38人だから、決まりでいいんじゃないか?」
「そうだね」
どうやら神奈月さん、めちゃくちゃB級グルメフェスティバルがやりたかったみたいだ。
嬉しそうな笑顔を浮かべている。
かわいい。
「では今年の文化祭、2年6組ではB級グルメフェスティバルを開催します!」
神奈月さんが笑顔でまとめるとと同時に、4時間目終了のチャイムが鳴るのだった。
※ ※ ※ ※
放課後。
教室に残ってしばらく文化祭関連の仕事をしてから、俺と神奈月さんは昇降口まで降りてきた。
ちょうど文化祭実行委員も終わったところのようで、竜弥と日南さんも昇降口にいる。
「お疲れ様~」
「お疲れ様です」
「お~、お2人さんお疲れ!」
「お疲れぃ」
不思議な4人で並んで校舎を出る。
すると日南さんが勢いよく手を挙げた。
「はい! 提案!」
彼女が伸ばした手の先に広がる夜空。
だいぶ遅くなっちゃったな。
「せっかくだしこの4人でご飯に行かない? 文化祭の成功を祈って!」
「お、いいな!」
竜弥も勢いよく手を挙げる。
まあ、お前が断るわけはないよな。
もちろん、俺にも断る理由はない。
神奈月さんの方を見ると、彼女は小さく頷いた。
「行くか~」
俺も何となしに夜空へ手を伸ばす。
「お、お~」
少し遅れて。少し照れながら。
神奈月さんも手を突き上げるのだった。
頬が赤くなっている。かわいい。
でも楽しそうだ。
「やった! 神奈月ちゃんとご飯行けるの初めて!」
日南さんが神奈月さんの肩を抱く。
そのまま鼻歌を歌いながら歩き続けた。
うん。これができるのは日南さんだけだわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます