弁当を忘れたクラスの超お嬢様JKを庶民の味で救済したら半同棲生活が始まった件について

第13話 「モデルが悪い……？」

　ファニレスことFunny Restaurant改め、ファミレスことFamily Restaurantをあとにする。

　服屋は何店舗かあるが、俺が普段行くのは安くて大手のところだ。

　ただ今回は、色々な店を巡りつつ神奈月さんが選んでくれるらしい。

　いつもだったら絶対にしない買い方。

　たまにはこういうのも楽しいよな。

「うーん、このシャツは似合うかもなぁ。あ、でもこっちの色の方が……いや、でも……」

　神奈月さんはあれこれ手にとっては、真剣な顔で思い悩んでいる。

　その美しい横顔からは、やはり育ちが影響しているのだろう、気品が漂ってくる。

　ふと、何で俺は彼女とショッピングモールへ出かけ、しかも服をコーディネートしてもらってるんだろうと不思議な感覚になった。

　人生何が起こるか分からないとは言うけど、これはさすがに予想のしようがない状況だよな。

「せっかくだし、どっちも着てみようか？」

「そうだね。じゃあこれと、これ。とりあえずパンツはこれを履いてみて」

「分かった」

　神奈月さんから服を受け取り、試着室に入る。

　渡されたTシャツは、種類が一緒でも色が２色。

　シンプルな白地にデザインが描かれたものと、緑がかった色のものだ。

「まずは緑から行くか……」

　今着ているものは脱いで、緑がかった方から先に着る。

　そしてパンツも指定されていたので、履いているものは脱いだ。

　ペラペラの布１枚で仕切られた向こうでは、神奈月さんが待っている。

　そして俺は下半身が下着。

　何だか変な気持ちになるな。

　この場合の変な気持ちというのは、あくまでもさっき感じた不思議な感覚と通じるものであり、決してよこしまな気持ちではないことを断っておく。

「どうかな？」

　カーテンを開けて神奈月さんに見てもらう。

　まだ彼女にじろじろ見られるのは、あんまり慣れていない。

　こっそり神奈月さんの背後にある壁へ視線をずらしつつ、講評を待つ。

「うーん」

　第一声、微妙。

　そこまでテンションが上がっている様子は見られない。

「何かイメージと違うなぁ。シャツとパンツの相性は悪くないと思うんだけど……」

「もしかしてモデルが悪い……？」

「そ、そんなそんな！」

　神奈月さんは手をぶんぶん振って否定する。

　ついでに首もぶんぶん。かわいい。

　正直、俺としては自分に似合う服がどんなものなのか分からない。

　だから、言われるがままのマネキン状態になる。

「白着てみよ！　そっちなら似合うかも！」

「オッケー。ちょっと待って」

　緑シャツを脱ぎ、白い方へと着替える。

　カーテンを開ける前に鏡を見てみた。

　うーん、これはちょっと似合ってるかも……？

　いかんせん、ファッションセンスに関する自信は皆無なのでまるで分からないけど。

「どうだろう？」

　やはり神奈月さんはじっくり見た後、勢いよくグーサインを突き出した。

「いいね！」

「やっぱり？　さっきのより良いかもって、何となくだけど自分でも思ったよ」

「すっごく似合ってるよ！　平坂君の爽やかな感じだと、やっぱりシンプルな白地にプリントの方が合うんだね」

「素材も着やすいし、これから夏に向けて涼しそうだからいいかも」

「うんうん！　平坂くんがお気に入りなら、これにする？　パンツも合わせてバッチリだと思うよ」

「じゃあこれにしようかな」

　神奈月さんは改めて俺を見つめ、そして笑顔で頷いた。

　かわいい。

　どうやらお目に適ったようだ。

　モデル、悪くなかった。良かった。

　俺も気に入ったし、これを買ってもらうことにしよう。

「着替えちゃうね」

「はーい。待ってる」

　着替えて試着室をあとにし、緑のシャツは元の場所に戻す。

　そして白シャツとパンツを抱え、２人でレジに向かった。

「２点で７，５３０円になります」

「はーい」

　高っ！　とはさすがにプレゼントされる側として言わないけど、あまりに高くて驚く。

　普段の俺の服とは格が違うようだ。

　それにしても今日の神奈月さん、クレーンゲームをはじめ相当お金を使っている。

　一体、どれくらい家からお金をもらってるんだろう……？

　バイトの給料が少なくて不満を感じないか不安になってくるな。

「これは私が持つね」

「うん。そしたらスーパー行って帰るか」

「そうだね」

　スーパーは１階。

　エスカレーターで降りていく。

　買うのは食料品だ。

　今日の夜ご飯はもちろん、1週間分の食料を買う。

　俺は学校も購買ではなく弁当を持っていってるので、その分も買わないといけない。

　神奈月さんとの半同棲生活のきっかけになった弁当。

　この弁当が新たな大事態を巻き起こすことを、この時の俺はまだ知らない。