第12話 「Funny Restaurantではねえよ」

「どこでお昼を食べようか?」


 休憩用に備えられているソファーに座って相談する。

 3階にはフードコート、1階にも飲食店が建ち並ぶスペースがある。

 このショッピングモールで食事を取るなら、このどちらかだ。

 ちなみにフードコートの方は、今ちょうど座っている場所から様子をうかがうことができる。

 神奈月さんはしばらくフードコートの方を見てから尋ねてきた。


「1階にはどんなお店があるの?」

「そうだな……。普通に定食屋さんとかお寿司屋さん、天ぷら屋さん、しゃぶしゃぶ、とんかつ……あとはファミレスとかかな」

「ファニレス? ピエロとかがいるの? 楽しそうなお店だね」

「Funny Restaurantではねえよ。ファ“ミ”レスな。Family Restaurantの略」

「あーなるほど。そこはどんなお店?」

「何でもありかな。洋食も和食も、肉も魚も、ご飯もパンも麺もあるし」

「本当に楽しそうなお店じゃん! そこがいい!」

「じゃあファミレスにするか」


 俺にとっちゃファミレスなんてどうってことない店だけど、それでも神奈月さんにとっては新鮮な体験で。

 目を輝かせる彼女の反応を見ているのは、とても楽しいものだ。


 1階に移動してファミレスに入店する。

 向かい合って座り、メニューを神奈月さんに渡した。


「本当にいろいろあるね。迷っちゃう」

「俺はもう決めた」

「はやっ! えー、どうしよう……」

「ゆっくりでいいよ」


 神奈月さんはメニューをめくりながら、あれこれ考えている。

 そしてふと、あるページで手を止めた。

 覗き込んでみると、そこにあったのはお子様プレートの写真。

 そんなに気に入ったのか。


「これにしようかな……」

「悪いけど無理だな」

「えっ? えっ? 何で?」

「ほら、ここ」


 俺はお子様プレートの写真の下にある注意書きを指差した。

 そこには小さな文字で「※13歳以上の方は注文できません。」と記されている。


「ええ……残念。私まだ大人じゃないのに」

「まあまあ。昨日みたいなやつだったらまた一緒に作ればいいでしょ?」

「そうだね。じゃあ私は……和風ハンバーグにする」

「オッケー」


 店員に注文を伝え、待つこと10分。

 神奈月さんの和風ハンバーグセットと、俺のカレードリアが運ばれてきた。


「うん、美味しい」

「な。安いし」


 食事を進めつつ、この後の予定について話し合う。


「平坂くんの買い物がまだ終わってないよね? ごめん、すごい付き合わせちゃって」

「気にしないで。どうせ肉とか魚とか買うから最後の方がいいし。神奈月さんの方は、まだ何か見てまわりたい場所はある?」

「平坂くんへのプレゼントくらいかな」

「プレゼントかぁ……」


 彼女の性格を考えて、過度な遠慮は避けることにしたものの、かといって何を買ってもらえばいいのか分からない。

 この後の食料買うお金払ってとか言ったら、そういうのじゃないって膨れられそうだし。

 何だろう。今の俺が必要なもの。


「あー、今日のこの2人での買い物が思い出というプレゼン……」

「むー」

「あ、はい。何でもないです」

「私だってすっごい楽しいよ? 思い出だよ? でもそういうのじゃない」


 あーあ、結局膨れられた。

 かわいい。

 ぷんすかしてるけどかわいい。


 それにしてもどうしたものか。

 いろいろ考えていると、とある案が思いついた。


「服とかは?」

「服?」

「うん。俺、あんまり服とか興味なかったんだけど。でも神奈月さんお洒落だし、選んでもらうのどうかなって」

「いいね! じゃあそれにしよ」

「じゃあこの後は服屋に行って、最後にスーパーに行って帰ろう」

「オッケー」


 よし、決まりだ。

 拭くなら実用的だし、俺に必要なものだし、神奈月さんに選んでもらえる。

 我ながらいい思い付きだな。

 無事に解決した晴れやかな心で、俺はカレードリアを食べ進めるのだった。

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