第14話 「パートナーだから」

 バスに乗って帰宅する。

 時間にして午後3時半。

 夕食まではまだ時間があるな。


「一度、洗濯物を畳んできちゃったら? 俺も買ってきたものしまったりするし」

「はーい。それ終わったら、ちょっとゲームしない?」

「いいよ」


 食料品は冷蔵庫、冷凍庫へしまい、ベランダに干しておいた洗濯物を取り込んで畳む。

 完璧に乾燥までやってくれる洗濯機、便利だよなぁ……。

 まあ、今の俺の財力では夢のまた夢だけど。

 今日の夕食は和食と買い物中に決まったので、米だけ洗ってセットしておく。

 あらかた終わったところで、インターホンが鳴った。

 玄関ドアを開ければ、服の入った袋を持った神奈月さんが立っている。

 部屋に入ると、彼女はそれを丁寧に両手で差し出してくれた。


「はい。私からのプレゼントです」

「ありがとう。大事に着る」

「うん! 今度はそれ着てお出かけしようね」

「そうだね」


 袋から取り出し、タグを切って畳み直す。

 衣類棚にしまって戻ると、神奈月さんは早々とゲーム機を箱から出していた。


「これ……どうやって使うの?」

「テレビに繋ぐんだよ。貸してみ」


 俺の部屋のテレビには、一代前のモデルが繋がれている。

 そのコードを抜き、新たに最新型の方を挿し直した。

 欲しかったゲーム、まさかこんな形で手に入るとはな。


「セットアップにちょっと時間がかかるな……。少し待ってて」

「はーい」


 神奈月さんはゲームの空箱の前にちょこんと正座して、設定中のテレビ画面を眺めている。

 おやつを待てされている小型犬みたいだ。

 かわいい。


「洗濯物はちゃんと片付けられた?」

「もう、なめすぎだよ~。それくらいはできるって」

「いや、卵も割れなかったからもしかしたらと思って」

「今はもう割れるもん!」

「そうだったな」


 設定の進行度は30%くらい。

 まだもう少し時間がかかりそうだ。


「あのさ、平坂くん」


 ちょっとばかし真面目な顔をして、神奈月さんが口を開く。


「お願いというか、相談というかがあるんだけど」

「どうした?」

「私ってさ、確かに卵がやっと割れるようになったレベルなんだよね。料理はとても上手とはいえない」

「まあ、上手とか下手とか以前にやり方を知らないんだから仕方ないよ。それに教えたことはすぐできるようになるし」

「それならいいんだけど……。でも当分はご飯とかお弁当とかそのほかの家事も、平坂くんに手伝ってもらわないと、1人ではできないと思う」

「俺だって最初は教えてもらってできるようになったわけだしな。全く苦じゃないし、ちゃんと付き合うから心配しなくて大丈夫だよ」

「ありがとう。でも私が言いたいのはね? その、うーん、えーと……」


 神奈月さんは両頬に手を当てて、困り顔で軽く首を傾げている。

 言いたいことがあるけど、上手く言えない。

 そんなもどかしさは、十分に伝わってきた。

 余談だけど、困り顔もかわいい。

 設定の進行度は75%。

 じわじわと進んで行く。


「私が言いたいのは……平坂くんにも頼ってほしいなってこと」

「俺にも?」

「うん。分かってる。私の方が生活力断然ないし、してもらうことの方が多いのは分かってる。でもね」


 神奈月さんはまっすぐに俺を見つめ、優しい微笑みを浮かべて言った。


「パートナーだから」


 設定の進行度、90%。


「パートナーって、どっちかがどっちかに依存するものじゃないと思うの。だから私にできることがあったら、いつでも言ってほしいなって」

「……そうだな。パートナーだから」

「うん。よろしくね」

「こちらこそ」


 ほっとしたように、神奈月さんがはにかむ。

 設定の進行度、100%。

 何ともタイミングよく、ピロンという音がゲームの準備が整ったことを伝えてきた。


「ゲーム、やるか」

「うん! あ、これ平坂くんが取ったやつ」

「さんきゅ」


 某電鉄ゲームを受け取り、ゲーム機にセットする。

 初期から備わっているコントローラーは1つ。

 ゲームの仕様上、プレイヤーが何人だろうとコントローラーは1つあればプレイできる。

 この1つを代わりばんこで使う形だ。


「初めてだぁ。楽しみ!」


 ワクワクした顔でコントローラーを握る神奈月さん。

 しかし30分後。


「ぎゃー! 何これ何これ!? え? ここどこ!? えー! お金が減っていくんだけどぉ!?」


 キーングボンビーによってボンビラース星に連れて行かれ、借金地獄へと突き落とされるのであった。

 余談だけど、慌て顔もかわいい。

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