第49話 約束は果たされ、再会は叶い……

 機構が動き出し、ことわりに彼が繋がってからどれくらい経っただろうか。

 辰真たつまは、自分がすべきことのために動き出した。

 それは、蒼主院公謐そうじゅいんきみひつ。そのために、走り出す。

 来た道を戻ろうとするが、歪んだ空間内の中では道がわからない。


(こういう時こそ、ライからもらった札で!)


 ライと別れる前、手渡された木札を取り出す。彼曰く、この木札が蒼主院公謐そうじゅいんきみひつの元へ導いてくれるとの事だった。視線を向ければ、木札が淡白く光り出し、線が現れた。どこかと繋がっているような線に、希望を託して進む。


(お前の想いに、俺は報いるんだ!)


 ****

 

 同時刻。

 操姫刃ときは楓加ふうかの二人は、妖魔王になり果てた男の前にいた。威圧感に緊張し、冷や汗が二人の背中を伝う。

 ようやく二人に視線を向けた妖魔王は、静かに尋ねて来た。


〔小娘二匹が、何故ここに居る?〕


 威圧感のある野太い声と、興味が無いと言わんばかりの冷たい視線。だが、楓加ふうかは負けじと、勇気を振り絞って声を発する。


「あなたに会いたがっている人がいるから、ウチらは伝えに来たの」


〔興味等無い。失せよ〕


雪原ゆきわらむすめ。そう名乗る者に心当たりはないか?」


 操姫刃ときはが尋ねると、妖魔王の瞳が揺らぐ。どうやら心当たりはあるようだ。楓加ふうかがトドメを刺すかのように、雪原ゆきわらむすめから託された想いを言葉にして、彼に伝える。


「約束の場所で待っていると、言っていたの。あなたは会いたくないん? 好きだったんでしょ?」


〔異形と成り果てたこんな男が、今更会わせる顔等どこにあるという?〕


「どんな姿でも、好きな人は好きやと思うよ? だって、ウチがそうだから! 答えてあげてよ! 想い合っていたのだから!!」


 妖魔王と名乗って来た男の姿が揺らいでいく。二人が驚いていると、背後から空間が開き、女性の姿が現れた。

 雪原ゆきわらむすめを名乗って来た女性だ。

 彼女は、彼を包容し、涙を流して言葉を紡ぐ。今までの想いを込めて。


「ようやく、繋がりましたね、縁が。お二人のおかげです」


〔は……な? はな、なのか?〕


「左様でございます、零壱れいいち様。お会いしとうございました」


 彼女の涙が、彼の首元に落ちたと同時に、姿が変わって行く。異形であったはずの姿は、青年の人の形へ戻って行った。


「楔が……役目から解かれた、のか?」


 戸惑う零壱れいいちはなが接吻をした。それをきっかけに、二人の身体が透けて行く。


「そうか。解放されたから、あなた方はこれから本当の意味で眠りにつくのだな」


 操姫刃ときはが口を開けば、はなが微笑み零壱もつられたように笑う。穏やかな笑みを浮かべ、互いを見つめ合いながら二人は消えて行った。

 それを見届けると、操姫刃ときは楓加ふうかがいる空間が崩れ始めた――

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【落零弐】落逸<rakuitu>~はぐれ者達の退魔伝~ 河内三比呂 @kawacimihiro

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