第35話 狭間の世界で

 その頃。

 狭間の世界で、刃を交える李殺道りつーうぇいと……朱納しゅなは互いに譲らない状態が続いていた。


「随分とその身体に馴染んでいるな? 付き合いが長いか?」


 問われた朱納しゅなは、ハルバードを両手に構えながら一言だけ答える。


「あぁ、その通り。長い付き合いだから、な!」


 そうして、再度ハルバードを振りかぶると朱納しゅな李殺道りつーうぇいに向かって行く。それをかわすと李殺道りつーうぇいはバタフライソードで斬りかかる。

 ギリギリで避けると、朱納しゅなはハルバードを横向きに振る。李殺道りつーうぇいはバク転してかわす。そして再度バタフライソードを構え直す。


 この繰り返しが先程からずっと続いている。それにお互い気づきながら、なおも続けているのは……。


「時間稼ぎしてなにが目的だ、てめぇ」


 睨みつけながら彼が尋ねれば、李殺道りつーうぇいが静かな口調で答えた。


「そうだな……強いて言えば、暇つぶし」


「へぇ……その相手にわざわざハンパ者を選んだわけかよ?」


「あぁ、そうだ。俺もハンパ者だからな」


 言われて朱納しゅなが目を見開き……しばらく瞬きした後呟いた。


「なるほど? お前、半妖か。それも人間と妖魔が為したってとこか?」


「正解だ、人造とはいえ使い魔になり損ねた者。だからこそ、俺が選ばれた。この世から……全ての妖魔を消し去るために」


 静かに断言すると、李殺道りつーうぇいはバタフライソードの片方の切っ先を朱納しゅなへと向ける。


「遊びは終わりだ。お前の身体の主とその同胞共に伝えろ。今宵、妖魔は消える……とな」


 そう告げると、彼は風のように去って行った。それを見送ると、朱納しゅなは身体の主導権を志修那しずなへと返す。


「あ、はぁはぁ……! くっ、うぁ……!」


 思わずよろめき、手を地面に慌てておく。しばらくは休まなければ動けない。


祓力ふつりょくの……使い……すぎ……、のアホ……!」

 

 朱納しゅなに身体を使わせたのは良かったが、祓力ふつりょくを引き出されすぎた。疲れがどっと襲ってくる。身体中が軋む。


 (だから……嫌いなんだ。朱納あいつ!)

 

 そう恨みながら、志修那しずなは地面に寝転がり意識を失った。


 ****


 狭間の世界、別場所にて。


 雪原ゆきわらむすめの先導で、操姫刃ときは楓加ふうかがたどり着いたのは大きな石がある場所だった。


「ここは?」


 操姫刃ときはが尋ねれば、雪原ゆきわらむすめが悲しそうに呟いた。


「この場所は、私とあの方が約束を交わした場所を……再現されている所でございます。私達は。それ故に、あの方を救うことが叶わないのでございます」


「そうなんね……。大事な約束だったんだよね?」


 今度は楓加ふうかが訊く。雪原ゆきわらむすめは愛おしそうにその石を撫でながら答えた。


「えぇ、とても大切な……約束でございます」


 操姫刃ときは楓加ふうかは互いに顔を見合わせ、頷き合う。それを見て、雪原ゆきわらむすめは口を開いた。


「それでは……あの方を。当世の妖魔王となり果てた私の愛しい人をどうか――お救い下さい」


 そうして二人に向かって頭を下げる彼女に、操姫刃ときは楓加ふうかは覚悟を決めた。


 必ず、助けると……。

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