第34話 為さずして

「あ、の? 俺が……月詠つくよみみことと、契約……? ライが……月詠つくよみみこと?」


 困惑する辰真たつまに、公謐きみひつが静かに頷く。


「そう。君が契約しているのは、月詠つくよみみことという日本の神の一柱ひとはしらさ。神蔵かみくら家は、本物の神となんだ」


「どう、いう……?」


神蔵かみくら家はね? 神禊かんばら家の血統であり、神とゆかりのある一族ではあったんだ。元々ね? だけれど、神禊かんばら家が辿り着いたのは神の再現体を使役するところまでだった。それを――超えたのが神蔵かみくら家なのさ」


 公謐きみひつの言葉に、辰真たつまは声を出すことができなかった。


(理解……できない。いや、したくない……!)


 だが、無情にも公謐きみひつは話を続けて行く。

 

「だから君と出会えたのかもしれない。この世界で唯一の、神との契約者であり――そして未だにね?」


 公謐きみひつに言われたことをすぐに理解できなかった。辰真たつまは回らない頭で必死に何か言わねばと言葉を探す。


(えっ? あ……ライが月詠つくよみみことで、それで? 父さんの血筋が……あぁ! まとまらないし、俺が何も? して――)


 全身から力が抜ける。血の気が……引く。


「……俺、は……」


「君は、いつまで目を逸らしつづけるんだい? 全てから」


 公謐きみひつの言葉が辰真たつまの心を確実に抉って行く。……その通りだからだ。


(目を……逸らして? ……俺は……)


 俯く辰真たつまに、公謐きみひつが再び優しく語りかける。


「君、何かを為す時がきたんじゃないかな?」


「為す……時……?」


「そうさ。君は……このままでいいと本当に思っているのかい?」


 そう問われ、辰真たつまは思考が停止する。……拒むかのように。その様子を見て、公謐きみひつは話を変え始めた。


「そうだ、せっかくなんだし今の現世の話題でもしてもらいたいかな?」


「あ、えっと……はい」


 公謐きみひつのペースに飲まれていることを自覚しつつ、辰真たつまは今の自分の時代の話をし始めた。

 ……気を紛らわせるかのように。


 ****


 その頃。

 トクタイ本部、会議室にて。


浮風楓加うかせふうか君と初架操姫刃はつかときは君、そして八月一日辰真ほづみたつま君と伊鈴ノ宮志修那いすずのみやしずな君……つまりは九十六期Eチームの四人が行方知れずとなっていることは、みんなもう把握しているね?」

 

 会議室の中央で、ルッツが話始めた。集まっているのは、なんとか麗奈れいな雅姫まさき、そして……自身の部下である


 雅姫まさきうつむき、麗奈れいなが唇を震わせる。その様子を横目にしながら口を開いたのは……茶髪の青年だった。


「確か、病院で浮風うかせさんと初架はつかさん、戦闘中に八月一日ほづみ君と伊鈴ノ宮いすずのみや君が行方知れずになったんですよね? それも……全てに門が関係しているのでしょう?」


 彼の言葉に続くかのように、桃色の髪の女性が吐き捨てるように言う。

 

「ちっ! あのわけのわかんねえ門からは! なにが起こってやがんだ?」


 その疑問に答えられるものはいない。だが……それでもルッツは話を続ける。


「彼らを救出するためにも、そして、この不可思議な門をなんとかするためにも……情報を集めようか?」

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