第33話 再会と常世

「……あのさぁ……」


 志修那しずなはやや半泣きになりながら、横で歩くに声をかける。


「なんで辰真たつまと一緒じゃないの君ぃ!? ねぇライ!?」


 呼ばれて、ライは静かに答える。


【そうだな、タツマとの契約自体は切れていないようだが……随分とここに? だからだろう】


「それ答えになってないんですけどぉ!?」


 そんな会話をしていた時だった。一陣の風が吹く。


「うわぁぁぁぁ!? な、なになになになに!?」


 叫ぶ志修那しずなとライの前に現れたのは、赤い長髪に黒い中華風の装束に身を包んだ青年だった。


「お前は! 李殺道りつーうぇい!? なっ! えぇ!?」


 困惑する志修那とライを交互に見つめながら、李殺道りつーうぇいが口を開く。


「全ての妖魔が今宵死ぬだろう。だから問おう。そこの男、?」


 自分が問われているのだと気づいた志修那しずなの表情が暗くなる。


「ぼ、僕……は……」


「お前からはかすかに、妖魔の気配がする。しかも人為的な、な?」


 そう追求され、志修那しずながゆっくりと答える。


「僕の、中には……人造式神がいる。別人格として、活動している……よ。だけど……それだったらなんだって言うのさ?」


「……そうだな、戦う理由の一つが増えた。とだけ言おうか」


 李殺道りつーうぇいの目つきが鋭くなり、殺気を放つ。


「……結局そうなるの、ね……。はぁぁ……嫌だなぁ。僕は前線向きじゃないんだよ……」


 そう愚痴りながら志修那しずなは、ライに声をかける。


辰真たつまと合流しに行きなよ。僕は……」


 震える声で、志修那しずなは覚悟を決めたように声を発した。


「……朱納しゅな……」


 瞳の色が変わる。雰囲気も……先程までの志修那しずなではなくなる。その手に握られているのは、ハルバード。不本意ながらも、志修那しずな朱納しゅなを認識した瞬間だった。


「さぁ、やろうか?」


 静かに告げる朱納しゅなに対し、李殺道りつーうぇいがバタフライソードをどこからか取り出し、構える。


 二人の戦いが始まる中、ライは迷った末辰真たつまを探すため走り出した。


 ****


「ここ、どこなん? ねぇ、雪原ゆきわらむすめさん? で、ほんとにいいの?」


 前を歩く十二単の綺麗な黒髪をした女性、雪原ゆきわらむすめの後ろを操姫刃ときは楓加ふうかが歩く。

 雪原ゆきわらむすめは静かな口調で楓加ふうかの質問に答える。


「ここは、常世と現世の狭間の世界でございます。死者と生者が交わることのできる唯一の世界とも言えるでしょう」


「なるほど。それで死者である貴女とこうして話せているというわけか」


 操姫刃ときはが納得したように呟けば、雪原ゆきわらむすめがゆっくりと頷いた。

 彼女こそが、二人に助けを求めた声の主だ。


「なぁ、おれ達で本当にいいのか? おれ達は……だが……」


 操姫刃ときはの言葉に、雪原ゆきわらむすめが言う。


「この世に、そもそも完成された人間などいるのでしょうか? 皆、なにかしらの?」


 彼女の言葉に、操姫刃ときは楓加ふうかが思わず目を合わせる。それに振り返ることなく、雪原ゆきわらむすめは告げる。


「貴女達に助けを求めたのは……人の不完全さを知っているからこそ、あの方を救えるのではないかと思ったからです。どうか――お救い下さい」


 祈るような声に、操姫刃ときは楓加ふうかは静かに……頷いた。

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