第30話 合流と悲しみの声

「いいですこと!? わたくし達の目的はあくまでも保護です!! しっかり把握してくださいまし!」


 高圧的とも捉えられるような、圧のある女性の声に辰真たつま志修那しずなは困惑しながら、彼女ともう一人の女性の後ろを歩いていた。


 金髪を縦ロールにし、隊服をきっちりと着た女性天大路麗奈てんおおじれいなと、隊服の名残りが所属部隊のロゴバッジしかない、黒の革ジャンにミニスカートの深翠色のサイドテールの女性甲斐雅姫かいまさき


 麗奈れいなの方は先程から口を開いては、辰真たつま達に発破をかけ、雅姫まさきの方は単調に自己紹介しただけでずっと無言のままだ。


 そんな対称的な二人だが、なんでも入隊してからの仲らしい。彼女達は、トクタイの中でも精鋭部隊の一つに所属しているんだとか。

 これらの話も、訊いてもいないのに麗奈れいなから教えられた。


 (正直……だから? としか、思えないけど……)


 そんな辰真たつまの横を歩く志修那しずなの表情は一見するといつも通り不安げな感じだ。というよりも、麗奈れいなの勢いにされているのかいつも以上に不安げかつ不気味なくらい大人しかった。


(どうしたんだろう? いや、深入りするのは……良くないな)


 辰真たつまが自己完結していると、腰に下げている魔本・刹歌せつかの中にいるライが声をかけてきた。


【タツマ、シズナの様子がおかしいが……声をかけなくていいのか? 気になっているのだろう?】


「……ライ……」


 ライに促され、志修那しずなに話かけようとした時だった。無言だった雅姫まさきが突如立ち止まり薙刀を構える。


雅姫まさき、なにか気づきまして?」


「嫌な気配、察知。警戒求む」


 彼女の言葉で、全員に緊張が走る。そこに――それは現れた。


 ****


 その頃。

 楓加ふうかの病室で横になっていた操姫刃ときはが、目を覚ました。


「何者だ?」


 静かに起き上がり尋ねれば、その気配が濃くなった。


【……お願いがあります。あのお方を――お救い下さいませんか?】


 どこかはかなく、でも美しい凛とした女性の声。その声にいつの間にか起きていたらしい楓加ふうかが語りかける。


「ウチらに、誰を救ってほしいの……ですか?」


「……楓加ふうか……お前な……」


 呆れた声を出す操姫刃ときはを気にすることなく、その声は静かに答えた。


【私の、愛した人であり――今では人でなくなってしまったお方でございます】


「……どういうことだ? 人であったが人でなくなった? 人が妖魔に転じたということか?」


 操姫刃ときはが訊くと、声はより一層悲しそうな声を発する。


【左様でございます。人であった頃の名を衛刹零壱えいせつれいいち。今の名を――妖魔王"始まりは嘆きからファーストロア"と申します】

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