第28話 すれ違う想い

 黒樹くろき市内、某ファミリーレストランにて。

 賑やかな店内の中、辰真たつまとその家族である継父けいふと母が座る席だけが重苦しい空気に包まれていた。

 なお、ライは魔本の中で静かに待機している。


 沈黙ちんもくを破ったのは辰真たつまの実母、結乃ゆいのだった。彼女は先程から一切視線を合わせようとしない辰真たつまに向かって、優しく声をかけた。


「……辰真たつま。その……最近、どうなのかしら? 怖い目とかには合ってない?」


 母としての心配を、だが、辰真たつまは言葉で突っぱねた。


「……怖いとか、関係ない。任務だから」


辰真たつま……」

 

 寂しげな母の声色にも、辰真たつまは無反応を貫く。その様子を見かねた継父けいふ幸太郎こうたろうが静かに辰真たつまの方へ視線をやり、声を発した。


辰真たつま君。おか……結乃ゆいのさんは心配なんだ。その気持ちだけは……汲んであげてくれないかな?」


「……」


(……この人が悪いわけじゃない……母さんも、別に……ただ……

 

 辰真たつまは食後に残っていたコップの水を飲み干すと、静かに立ち上がる。


「……辰真たつま……?」


 結乃ゆいのが声を上げるが、視線をやることなく辰真たつまは告げる。


「……もう、話は終わったから戻る。じゃあ」


「えっ……ま、待って! 辰真たつま、まだ……!」


 結乃ゆいのの話を待つことなく、辰真たつまは会計へ向かいその場を足早に去って行った。その背を、お腹をさすりながら結乃ゆいのが寂しげに見つめ呟くが、その声が届くことはなかった。


 ****


「……今夜の月は、赤くなるな……」


 市内の某ビル屋上にて、赤い長髪の青年が呟く。それを聞いた洋風の喪服に近い服装をした『革命かくめい奏者そうしゃ』の一人であり、代表である女性が声を上げて笑いだす。


「あははは!! 李殺道りつーうぇい、お前がそれを言うのか! 全く退屈しないねぇ!」


 どこか侮蔑ぶべつを込めた声色に、李殺道りつーうぇいが答える。


「……それはお互い様だろう? 名河矢成ながわやなり


 名前を呼ばれた矢成やなりは、笑い声をピタリと止め、ドスの利かせた声で威圧する。


「あ? 半妖はんようごときが私の名前を呼ぶんじゃないよ! ……殺すわよ」

 

「構わんが、計画に支障が出ても知らんぞ。俺が、なんだろう?」


 挑発するような李殺道りつーうぇいの言葉に、矢成やなりが殺意を込めた視線を向ける。緊張感が走る中、その空気を矢成やなりかたわらにいた男性が壊した。


矢成やなり様、おたわむれはほどほどに……。計画通りに事は進んでおりますし、今宵こよい半妖はんようの言う通り赤き月です。ゲートを……蒼主院そうじゅいんの連中が気づく前に開かねば」


 男性の言葉に、矢成やなりが一転、たのしそうに答えた。


諒詠りょうえい。ま、貴方あなたの言葉通りね……半妖はんようごときに構ってるひまはない。さ、うたげの準備を始めましょう?」

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