第27話 失敗作

 トクタイ所有の病院内、一室にて。

 ベッドで横になっている楓加ふうかそばで、操姫刃ときは伍掛剣いつかのつるぎを磨いていた。その仕草は手慣れたもので、彼女がこの武器とどれだけ長い年月を共にしてきたかがわかるものだった。

 だが――。


「……ねぇトッキー? あの男の人に言われたこと、気にしてる……よね?」


 横たわったまま、楓加ふうかが尋ねれば操姫刃ときはが静かに息をき答える。


「……わかるか……。そうだ、おれは気にしている。あの男の言う通り…………」


 剣から片手を離し、握りこぶしをつくると操姫刃ときはが続ける。その目に光はない。


「……これでは、失敗作として扱われていたことを否定できんな……」


「……トッキー……」


 この二人を育てた孤児院を所有していた一族、藤波ふじなみ家。トクタイとの戦いに敗れ、断絶した一族。

 彼女達はそこで、被検体として扱われていた。その目的は「」こと。

 だが、その実験は過酷であり、かつ、失敗も多かった。楓加ふうかは身体能力こそ超人だが、藤波ふじなみ家が望んだような特異能力を持てなかった。操姫刃ときはは、能力こそ得たが扱いになんようした。

 その結果、二人は失敗作として……非人道的な扱いを受けて来た。そのあまりの劣悪な環境で沢山の同胞達が命を失った。そうでなくても、自分を失った者もいる。


 だからこそ、彼女達にとって今のトクタイにしか居場所がないと感じ、自分達の非力さをなげいてしまう。

 所詮しょせんは――失敗作なのだと。


 重苦しい空気の中、楓加ふうかが静かに呟いた。


「ねぇ……失敗作のうちらじゃ……たっくんやしずなんに迷惑かけちゃう、かな?」


 いつもの彼女からは想像もできない弱気な発言。だが、操姫刃ときはもまた、いつもの様子とは明らかに違った声色で答えた。


「どう……だろうな。おれ達は彼らに事情を説明していない。それは向こうもだが……知った時、どんな反応を返すかは……想像、できん」


 どこまでも気持ちが沈んでいく。二人だからこそ吐き出せる弱音だが、だからこそ鬱々うつうつとした気持ちの晴らし方がわからない。


「……しずなんとたっくん……なにしてるのかな?」


 話を強引に変える楓加ふうかに、操姫刃ときはが少し考えた後口を開いた。


伊鈴ノ宮いすずのみやは確か、家にいると言っていたな。辰真たつまは……なにか予定があるから外出するとか。詳細は、言いたくなさそうだったな」


「そっかー。……二人とも……」


 それ以上の言葉が浮かばずに、楓加ふうかは静かに泣き出してしまった。今の彼女にはメンタルにもかなりダメージがキているのだ。

 操姫刃ときはは静かにそばに寄り添う。姉妹のように育った絆を守るように。

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