第二章 それぞれの傷

第26話 億劫な日

 トクタイには特殊なルールがある。それは入隊時に振り分けられるA~Eまでのチームは通常通りなら二年で解散し、メンバーはそのまま、または追加や配置換えなどでそれぞれ正式な部隊へと編成されなおすというものだ。

 

 それを知ったのは入隊後だった。二年とは短いな……というのが辰真たつまの印象だった。そんな彼は今、Eチーム専用の家近くにある自販機の前にいた。

 幸いにも、水神・篠雨主命さざれぬしのみことは順調に回復し始めており、楓加ふうかもたいした怪我ではなかった。だが、辰真たつまがここにいるのは別の理由がある。

 それは――。


【今日は、お前の父親の命日だな。そして……。いつまでもここにいるわけにはいかないぞ?】


 そう。今日は辰真たつまの実父、神蔵龍二かみくらりゅうじの命日なのだ。この日は家族が集まる日と約束されている。だが辰真たつまは継父にも、実母にも会いたくない。


(父さんが死んでたったの二年で再婚されて、新しい父親なんて言われても……受け入れられるわけないじゃないか……)


 そう。辰真たつまが十歳の時に龍二りゅうじは事故死した。その悲しみは深く、幼い心にトラウマを宿やどすには十分で、だからこそ、たったの二年で別の男と再婚した母を――ゆるせないでいる。

 だからこそ、気が重い。重いのだが……。


「……そろそろ、行くよ」


【あぁ、共にな】


 待ち合わせにはギリギリになるだろう。それでいいかと思い直し、辰真たつまとライは家を後にした。


 ****


 その頃。

 楓加ふうかは経過観察で入院中で、操姫刃ときははその付き添いで家を空けている中、リビングで一人志修那しずなは静かに本を読んでいた。

 別に自室でもよかったのだが、今は広い空間にいたい気分だった。


(最悪だよ……またアイツが出たなんてさ……)


 志修那しずなは認識こそしていないが、周りからの証言で存在は知っていた。もう一人の人格、朱納しゅなを。

 彼の発現要因は理解している。だからこそ――

 そんな自分の現状が心底嫌なのだが、尊敬する祖父に「お前は人を救える!」と力説されてしまったからには、入隊試験を受けるしかなかったし、なんとか人造式神じんぞうしきがみで誤魔化していたつもりだった。

 しかし、今回の件で自分にもう一人の人格が存在することはバレてしまった。この状況だからこそ追求されていないだけで、おそらく今後なにかしら説明しなければならないだろう。


 それが億劫おっくうで仕方ない。自分の負をさらけ出すような行為が、志修那しずなは嫌だった。


「……はぁ~……」


 こんなにも明日を迎えるのが嫌なのは久しぶりで、志修那しずなは深くため息を吐きながら座っていたソファに沈み込むのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る