第23話 荒ぶる水神

 『革命かくめい奏者そうしゃ』の襲撃を受けたことにより、危機感を更に募らせながら水神の元へとようやく辿り着いた一行が目にしたのは。狂気に満ち溢れ、縦横無尽に暴れ回る水神、篠雨主命さざれぬしのみことの姿だった。

 本来白いであろう和装は黒に染まり、美しい水色の髪は逆立ち、ひとみは真っ黒に染まっていた。

 その勢いに思わずされてしまう。


「ちょぉおお!? なになに!? 想像以上に荒ぶってんだけど!? 術式じゅつしき壊したのになんで!?」


 驚きと困惑の声を上げる志修那しずなの横で辰真たつまが小さく呟いた。


「……よどみ」


「えっ……? たっくん、なにかわかるの?」


 楓加ふうかが尋ねれば、真っ直ぐな目であらぶる篠雨主命さざれぬしのみことに視線をやりながら、辰真たつまは言い切る。


「『革命かくめい奏者そうしゃ』が用意した術式じゅつしきによるよどみを取り込みすぎて、それの放出と吸収する割合のバランスが崩れているのかと。だから、術式じゅつしきを破壊してもよどみに汚染おせんされて……あんなふうになっているのだと思います」


「なるほどな。つまり、水神が取り込んでしまったよどみをなんとかしなければならない……ということなんだな?」


 操姫刃ときはの言葉に辰真たつまが小さくうなずく。そうしているあいだにも、状況はどんどん悪化してきている。猶予ゆうよはあまりない。


「よしっ! それじゃあ、そのよどみをなんとかすればいいってことだね! たっくん、出来る?」


 楓加ふうかの言葉に辰真たつまが小さくうなずく。それを確認すると彼女が声を少しだけ張り上げた。


「トッキー、たっくん、しずなん! ……戦闘体勢! だね!」


「はぁぁぁぁ!? 僕を戦力にはいれないでおくれよ!? 無理だよぉおおおお!」


 安定の志修那しずなの言葉に、楓加ふうかがふんわりと微笑みながら告げる。


「大丈夫! ぶーちゃん使えばいいんだし、ここはがんばろー!」


「いやそれ大丈夫っていわな……もうみんな動き出してる!? あーもう! おいで、武律ぶりつ!」


 志修那しずな武律ぶりつを呼び出したのを合図に、楓加ふうか操姫刃ときは辰真たつまとそしてライも本から出てきて動き出した。

 最初に操姫刃ときは伍掛剣いつかのつるぎを鞘から抜刀した。それに続いて辰真たつまが魔本・刹歌せつかから黒い刀を取り出す。その背後から武律ぶりつが戦闘体勢に入る。

 まず動いたのは操姫刃ときはだ。彼女は伍掛剣いつかのつるぎを大きく振りかぶり、篠雨主命さざれぬしのみことに向かって一直線に剣を振るう。

 それを帯で受け止めた篠雨主命さざれぬしのみことの背後から、ライの背に乗った辰真たつまが黒い刀で水神の……。それと同時にあふれ出たよどみを武律ぶりつが殴って払って行く。

 よどみが抜け出し始めたことで篠雨主命さざれぬしのみことは苦しいのか、がむしゃらに暴れ回る。だが、今までに比べたら威力はかなり落ちていた。


 そうして、篠雨主命さざれぬしのみことが溜め込まされていたよどみをすべて払い切った頃には、美しい女性の水神へと戻った彼女はぐったりとその場に倒れこんだ。

 

「水神様のケアは~私共にお任せを~。皆様は……」


 争護そうごが続ける前に、操姫刃ときは伍掛剣いつかのつるぎを抜刀したまま答えた。


「警戒を解くな。来るぞ……何かがな」

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