第17話 現地

 黒樹くろき市から車を走らせること数時間。

 たどり着いたのは、山が近い小さな町、響尾町ひびおちょう


「う~ん! 空気が美味しいね~!」


 大きく伸びをする楓加ふうかの横を、疲れた顔の志修那しずなが通る。


「あの……何時間も車を走らせるなんてさぁ……鬼畜すぎない?」


「仕方ないだろう。免許を持っているのが伊鈴ノ宮いすずのみや、お前だけなのだから」


 あっさりと事実を告げる操姫刃ときはに対し、志修那しずなが更に愚痴る。


「そこ! そこなのよ問題は!? ねぇ! 辰真たつまは仕方ないにしても、浮風うかせ初架はつかは十八なんだから、免許持っててもいいじゃないか! なんで僕しか持ってないわけぇぇ!?」


「それについてはごめんね、しずなん? ウチはさぁ~あはは……」


「おれについては、能力の弊害へいがいだ。平時ならまだ問題はないだろうが、有事の際に能力がどう作用するかわからんのでな。故に免許は取っていない。すまない」


 二人のもっともな理由に、志修那しずなあきらめたのだろう。がっくりと項垂うなだれた。そこから少し離れたところで辰真たつまたたずんでいた。


(ここは……父さんと遊びに来た最後のところ……。懐かしいな……)

 

 四人が今いるのは、依頼人が所有する天井付きの駐車場だ。外は報告書の通り土砂降りで、道行く人は少なく、いても雨合羽あまがっぱに分厚い雨靴を履いて動きづらそうにしていた。

 四人もトクタイ支給の雨具を装備し、依頼人との待ち合わせ場所へと向かうことにした。


 ****


「いや~お待ちしておりました~、トクタイの方々~。私めが、今回依頼を出させて頂きました~彪ヶ崎争護あやがさきそうごでございます~」


 四十代前半と思しき、白髪しらが交じりの疲れた顔の男性が口を開く。深々とお辞儀をしながら名刺を差し出す彼を見て、志修那しずなが大声を上げた。


「ちょ! 彪ヶ崎あやがさきって……確か、前市長の苗字も彪ヶ崎あやがさきじゃなかったかい!?」


「はい~そちらの市の市長めをしていたのは、弟でございます~。その節は大変なご迷惑をおかけいたしました~。一族を代表しておび申し上げます~」


 更に頭を下げる争護そうごに、操姫刃ときは志修那しずなの頭を勢いよく叩き彼の頭を下げさせた。その様子を苦笑いしながら、楓加ふうかが頭を下げ名刺を受け取り自分の名刺を手渡す。


「そんなです! こちらこそよろしくお願いしますね! ウチ……わたしがこのチームのリーダー、浮風楓加うかせふうかです! それでは、彪ヶ崎あやがさきさん! 早速ですが詳しい話をお聞かせ願えますか?」


 楓加ふうかの言葉で下げていた頭を上げると、争護そうごが神妙な面持ちで四人に着席をうながす。今いるのは争護そうごが用意した会議室だ。彼はこの町で役員をしながらトクタイと提携ていけいして治安維持を担当しているらしい。


「それでは~早速話させていただきます~。まずは被害状況からですね~」


 話し出した争護そうごの表情は、口調とは裏腹にとても緊迫していた。


(……それほど、事態が深刻……こと……なのか?)


 自分の想定が甘かったことを内心ではじながら、辰真たつま争護そうごの話に耳をかたむけるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る