第15話 初めて聴く声

 無事に持ち出し許可をもらった辰真たつまは、妖魔王ようまおうについて記載された資料本を持ってEチームの待機室へと戻って来た。

 まだ他の三人は戻ってきてないようで、その事に安堵した辰真たつまは自分の席に着くと資料を開く。


(えぇと……知りたいのは……これじゃない……これでも、ない)


 資料をめくりながら、辰真たつまは目的の記述を探す。だが……。


「……はぁ。ない、か……」


 残念ながらめぼしいどころか、かすりすらしなかったことに落胆しながら、辰真たつまは背もたれに寄りかかる。


【少し目を休めた方がいいのではないか? 酷使こくしするのは良くないぞ】


 ライに指摘され、辰真たつまは目を閉じることにした。少しでも休めるためだ。しばらくして、気付けば辰真たつまは寝入っていた。


 ****


 ――夢。


 事故で父さんが死んで……しばらくして、の苦い思い出。


 大好きな父さんの代わりなんていない! そう言って逃げ出して……逃げた先でライと出会ったんだ。


 ……あれから、俺はずっと探している。自分の、


 ****


「たつま……さん?」


 聞きなれないか細い声だったが、気配に敏感びんかん辰真たつまはすぐに目を覚ました。起きて辺りを見れば、そばに白い髪と黒い髪をした少女、射離凪いりなぎがいた。


射離凪いりなぎ様が……喋った……のか?)


 このEチームに配属されてからというもの、彼女の声を今まで聞いたことがなかったためについ驚いてしまったのだ。


「あの……だいじょうぶ、ですか?」


「えっ……?」


 射離凪いりなぎに尋ねられ、困惑を隠せない辰真たつま。そんな彼に対し、彼女は小さな手で顔に触れた。


「ないていたから……きになったのです……」


 ようやく、彼女が自分の身を案じてくれていることに気づいた辰真たつまは、もたれていた椅子から上半身を起こして立ち上がり頭を下げる。


「……大丈夫です。ご心配おかけし、申し訳ありませんでした」


「なんで、あなたがあやまるのです? なにもわるいことはしていない、でしょう?」


 言われてみればその通りなため、辰真たつまはいよいよ返答に困ってしまう。どうしたものかと思案していると、ライが魔本の中から助け船を出す。


祓神ふつかみよ、タツマはあまり話すのが得意ではないのだ。気にしないでやってくれないか?】


「そう、なの? なら、わかったわ」

 

 それだけ言うと、射離凪いりなぎは透明になって行きその場から姿を消す。取り残された辰真たつまは、困惑しながらデスクに置いた用済みの資料に視線をやる。


「……これ、どうしよう……」


 あと数十分もすれば、今回の任務についてのミーティングがある。資料室に返却へ行くのは次の機会にしようと決めた辰真たつまは、もう少しだけ休憩することにした。

 外から聴こえてくる小鳥のさえずりが耳に心地よかった。

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