第一章 邂逅

第13話 初任務を終えて

「初任務、皆ご苦労様。それじゃあ、報告書を各自提出の後、自由行動とする。以上」


 任務完了後、待機室での和沙かずさからの指示に従い、それぞれデスクと向き合う。それを確認すると、彼女は司令室へ入って行った。

 しばらく、静かな時間が流れた。それぞれの方法で報告書をまとめている音だけが響く。そんな中、慣れないパソコンに悪戦苦闘しながら辰真たつまはふと思う。


(……そういえば。初架はつかさんのは一体……? 多分前に言っていた能力だとは思うけれど……)


 操姫刃ときは辰真たつまと『爆炎の妖魔』の思念とのあいだに割り込んだ時のことだ。確かに彼女は祓力ふつりょくとは明らかに違う力を使った。

 それはわかったのだが、具体的にどう言った能力なのかがわからなくて……辰真たつまは思わず額に手を当てる。


(……いて……いいものなのだろうか?)


 なんだかきにくくて、辰真たつまは視線を彷徨さまよわせる。報告書は具体的な方がいい。だが、操姫刃ときはの能力についてわからなければ、正確性に欠ける。

 どうしたものか悩んだ末、辰真たつまが意を決して操姫刃ときはの方へ身体からだを向ければ、彼女は報告書を書き終えたらしく椅子から立ち上がったところだった。

 視線が交わり、辰真たつまは気まずくなって思わず視線をそらしてしまった。それに気を悪くするでもなく、操姫刃ときはが声をかけてきた。


辰真たつま? おれになにか?」


「あ……その……」


 口ごもる辰真たつまに対し、彼女は合点がいったというように、口をゆっくりと開いた。


「おれの能力について悩んでいるのだな? まぁお前は間近でみたわけだから、報告書に記載するのも当然か」


 彼女の言葉に反応したのは志修那しずなだった。彼は不思議そうな顔で操姫刃ときはを見つめ尋ねる。


「ん? 能力……って確か、『説明が難しい』とか言ってたやつかい?」


「そうだ。使う必要性に迫られたからな、使った」


 あっさりと告げる彼女に対し、楓加ふうかがいつもよりワントーン下がった声色で声をかけた。


「そっか。トッキー……使ったんだね~……。具合はどうなん?」


「問題ない。……と、伊鈴ノ宮いすずのみや辰真たつまには話が見えんな。すまない。この機会だ、おれの能力を至極しごく簡単に説明しよう。そうだな、表現としてもっとも近いのは……だな」


「は? ハッキングぅ!? それって……アレだろう!? その、機械とかをなんやかんやしちゃうヤツだろう!? それが能力ぅ!? えっそれ人体にも使えたりしちゃったりするのかい!? というか使ったんだよねえ!?」


 志修那しずなが大きな声で尋ねれば、操姫刃ときはうなずく。


「機械に対しての方が精度は高い。だが、確かに多少人体に対しても行使できる。もっとも、おれが人体に対して影響力を発揮できるのは、せいぜい簡単なコマンドだけだ」


「コマンドってなにさ!? 怖いんですけどぉぉぉぉ!?」


 なおも騒ぐ志修那しずなに対し、楓加ふうかが困ったように笑いながら彼に近寄る。


「まぁまぁしずなん、落ち着いて? トッキーは人に悪さしないし、それに確かはずだから、安心してね?」


「……浮風うかせさん、初架はつかさんの能力について知ってたんですか?」


 辰真たつまの疑問の答えたのは操姫刃ときはだった。


「おれ達は同じ孤児院の出身、ようは幼馴染だからな。互いのことはよく知っているつもりだ」


「そそ~。あの頃からの大親友なんだ~!」


 そう言って二人は微笑み合う。それを見て、ようやく落ち着いたらしい志修那しずな辰真たつまの横に近寄り、静かに耳打ちをした。


辰真たつま。僕達は彼女達に不干渉を貫こう? というか、お願いだからあいだに入ろうとしないでおくれよ? 男が挟まったら待っているのは地獄だからね?」


「……は、はぁ。意味はわかりませんが……了解です……?」


 とりあえず承知した辰真たつまに深く頷く志修那しずな操姫刃ときは楓加ふうかが不思議そうに見つめていた。

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