第11話 思念

【下に降りる気か! マズイぞ、タツマ! トキハ!】


 ライの声が響く。先に動いたのは辰真たつまだった。


「……止めて、みせる! つち術式じゅつしき肆銘しめい円盾えんしゅん!」


 本来防御技の円盾えんしゅんを『爆炎の妖魔』の行く先に展開させ、道を塞ぐ。


「おっとォ! 防御技をこう使うかァ! おもしれェ!」


 方向転換をすると彼は円盾えんしゅんにして、辰真たつまの方へと直進して来る。


(くっ! 位置が悪すぎて……かわせない!!)


 その刹那せつな、割り込んだのは操姫刃ときはだった。彼女は伍掛剣いつかのつるぎを握り直して叫ぶ。


伍掛剣いつかのつるぎ、最大展開! シークエンス解放!」


 伍掛剣いつかのつるぎが五分割され、操姫刃ときはを囲むように回転する。その回転は『爆炎の妖魔』が近づくに連れて勢いを増していく。


「今! !」


 彼女がそう告げた瞬間、『爆炎の妖魔』に向かって五つの閃光が放たれた。そして……。


「妖魔! だ。その男から離れろ!」


 変化はすぐに起こった。榛登はると身体からだから黒いモヤが現れ、どんどん彼から離れて行く。気を失った榛登はると身体からだは、展開していた円盾えんしゅんに乗っかって落下をまぬがれたようだった。その状態を維持したまま、辰真たつまが呟く。


「……あれは……?」


【『爆炎の妖魔』の思念本体だろうな。急げ! あのままだと他の誰かに憑りつくぞ!】


 黒いモヤは再び屋上へ戻りながら何か言っているようだったが、言葉として聞き取れなかった。だが、敵意だけは認識できた。


「させん!」


 操姫刃ときはが分割した伍掛剣いつかのつるぎを元の一本の形に戻し、技を放った。


きん術式じゅつしき伍銘ごめい封魔刃ふうまじん


 黒いモヤはその技をかわし、炎のかたまりへと変貌していく。ちょうど成人男性ほどの炎の人型が浮かび上がった。


【オレはァ! まだァ! オワラネェ!】


 屋上の柵の上に足がつかない程度の位置で、『爆炎の妖魔』の思念がたたずむ。


【マダマダマダマダァ! オワラネェンダヨォ!】


 明確な敵意とともに広がる炎を前に、辰真たつまはライが連れて来た榛登はるとを抱えたまま、慌てて再度防御技を展開させた。

 

辰真たつま! その男は任せた……と言いたいところだが、おれは力を使い過ぎた。交代だ! お前があの妖魔を倒せ!」


 いつの間にか近くに来ていた操姫刃ときはにそう告げられ、思わず辰真たつまは目を見開く。そうしている間にも、炎の勢いは増していく。


【タツマ、決断する時だ。……安心しろ、ワタシはお前と共にある】


「……ライ……。わかり、ました。初架はつかさん、この人をお願いします……!」


 意を決した辰真たつまは、炎を防ぎながら『爆炎の妖魔』の思念の前に立った。


「……ふぅー……。行くぞ……!」


【オオゥ? オマエガアイテカァ? イイゼェ! コイヨォ!】


 かろうじて聞き取れる思念の言葉に、辰真たつまは返事のかわりに握りしめていた刀を構え直した。


「妖魔を……はらいます……!」

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