第9話 遭遇

【タツマ、シズナ! 危ない!】


 二人に向かって放たれた炎の弾丸を、魔本から勢いよく飛び出したライが身代わりとなって受け止めた。


「……ライ!? っ!」


 声をかけながら、辰真たつまは魔本刹歌せつかの中から刀を取り出し構える。それを横目で見ながら志修那しずな人造式神じんぞうしきがみの一体を呼び出した。


「守っておくれよ、護連ごれん!」


 真剣な声色で志修那しずなが呼び出したのは、三角形タイプの盾型の式神だ。一メートルくらいのその式神を自身の全面に出すと彼は辰真たつまに向かって声をかけた。


辰真たつま! 敵がどこから仕掛けてるのかわからないんだ! ひとまず、護連ごれんの内側に入りなよ!」


「……はい」


 素直に答えると、辰真たつまは刀を構えたまま指示通りに入る。志修那しずな祓力ふつりょくの影響だろう、見た目以上に防御範囲は広いようだった。その中に入りながら辰真たつまはライとの連携が切れていないことを認識し、志修那しずなに耳打ちする。


「……伊鈴ノ宮いすずのみや先輩」


「なんだい!?」


「……後方支援は頼みます」

 

 それだけ告げると、辰真たつま護連ごれんの守りの外へと飛び出した。


「ちょお!? 辰真たつまぁ~!?」


 焦った声を発する志修那しずなの方を見る事なく辰真たつまは一直線に進んで行く。そこはビルの壁だ。走る勢いを殺すことなく進むと辰真たつまが声を上げた。


「……ライ!」


 いつの間に合流したのか、ライが現れた。そのまま、辰真たつまを背に乗せると、垂直な壁を駆け上り始める。それを茫然ぼうぜんと見ていた志修那しずなが一言もらす。


「……なにあれ……」


 ****


 夜のビルを駆け上っていると、上から紅蓮の弾丸が一発、一発と放たれた。ギリギリで攻撃をけつつ登り切れば、屋上に人影が見えた。


「うぅっ……! オレに、近寄るなぁ!!」

 

 赤い炎を両腕りょううでまといながら、くだんの妖魔憑きであろう青年が叫ぶと同時に、彼の背後に別の人影が飛び上がって来た。

 月の光をバックに現れたのは、操姫刃ときはだった。彼女は伍掛剣いつかのつるぎを大きく振りかぶって青年に向かって技を放った。


きん術式じゅつしき壱銘いめい斬葬ざんそう


 彼女が放った技を炎の壁で防ぐと青年は、挟み込む形となっている辰真たつまの方へと向かって炎の弾丸を放った。


「っ! 土のつち術式じゅつしき壱銘いめい……華盾かしゅん!」


 防御技を出し、炎の弾丸を防ぐ辰真たつまの背後から、辰真たつまライが飛び出した。


【妖魔憑きよ、覚悟!】


 ライがそのまま青年に向かって後ろ足で蹴りを入れようとする。だが、青年はギリギリでかわすと、二人と一匹から距離を取った。

 この屋上は大きな百貨店のものだからか、それなりの広さと遮蔽物しゃへいぶつがある。それをうまく利用して青年が遠ざかって行く。

 その動きは軽やかで、どう見ても一般人のそれではない。

 辰真たつま操姫刃ときはは顔を見合わせると、青年の後を追った。

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