第7話 初任務は

「……今日集まってもらったのは、いよいよ初任務だから。心して聞くように」


 九十六期Eチームとなって数週間。和沙かずさの唐突な言葉に、志修那しずなが大声を上げた。


「はぁぁいぃぃ!? い、い、いきなり初任務ぅ!? 聞いてない! 僕はそんなの聞いてないぞ!」


「……今言ったからね? それはさておいて。これより概要を説明するから資料を手に取って」


「そんなぁ!?」


 情けない声を上げる志修那しずなを無視すると、和沙かずさが静かに続ける。


「今回課せられた任務は……


 妖魔憑きという単語を聞いて、操姫刃ときはが口を開いた。


「妖魔憑きとはなんだ?」


 彼女の疑問に答えたのは、ライだった。彼は辰真たつまの持つ魔本の中から声を発する。


【妖魔憑きというのは、憑りつく系の能力を持つ妖魔に文字通り、憑かれている状態の人間のことを指す。わかりやすい例を出すと悪霊に憑りつかれているようなものだな】


「それはお前達とはどう違う?」


 操姫刃ときはが鋭いところを突いて来る。それに反応したのは辰真たつまだった。


「……俺達は妖魔憑きとは違います。その、…………」


 対等という言葉に和沙かずさの眉がピクリと動く。だが皆、辰真たつまに視線をやっていたため、その事に気づく者は誰もいなかった。


「そうか。まぁ、妖魔に憑りつかれているのと、契約はまた別物か。余計なことをいたな、すまない」


「……あ、いえ……」


 上手く返答できない辰真たつまを気にすることなく、操姫刃ときはが黙る。それを見守っていた和沙かずさは静かに資料に視線をやる。


 資料には、一人の青年が写っていた。気弱そうだが、その目つきは鋭く暗い。


「この人が妖魔憑きなん? なんか怖い顔してるねー」


 楓加ふうかに同意するかのように、志修那しずなが声を上げる。


「こんな! いかにも危なそうなヤツ相手に、僕は前には出られないからね!? 無理! 無理だから!!」


 騒ぐ彼を横目に見ながら、辰真たつまは思いをはせる。


(妖魔憑き……。支配関係……か。苦しい、だろうな……)


 ****


 黒樹くろき市内某所にて。


「うぅぅぅ……!」


 うす暗い路地裏を歩きながら、青年はに怯えていた。


【どうしたァ? ビビるこたぁねぇぜェ?】


「うっる……さい! オレを、オレは……!」


 わずかに残っている抵抗の意志を示すと、妖魔は笑う。


【いいねェ! それこそ、オレのを宿すにふさわしいぜェ!】


 どこまでも狂った笑い声を、自身の内側から聴きながら青年は天を見上げる。


「だ、れか……オレを……殺して、くれ!」


 悲痛な声をあざ笑う声に、青年は自分が蝕まれていくのを感じていた。

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