第2話 妖魔との契約者

 辰真たつまの言葉に誰よりも反応したのは志修那しずなだった。彼は今日一番の大声を上げる。


「なぁぁぁ!? んだってぇぇぇ!? 妖魔と契約ぅ!? 退魔師なのに!?」


 騒ぐ彼の頭を操姫刃ときはが押さえた。


「ぐぬぅ!? な、なにを!?」


「うるさい。そこの……金髪ピアスもとい、なんだったか? お前。そう、お前の話が終わってない。だろう?」


 またも淡々と語りかける操姫刃ときはうなずくと、辰真たつまが続けた。


「……諸事情あって妖魔ようまと契約していますが、彼は味方です。間違いなく。……ライ」


 辰真たつまが魔本を開き床に置けば、そこから現れたのは、全身黒い体毛に覆われた四足歩行のけもの型の妖魔ようまだった。


「彼がライです。俺の……相棒です……!」


 少しだけ語気強く言えば、志修那しずなは視線を彷徨さまよわせながらも黙ってしまった。その静寂せいじゃくをたやすく操姫刃ときはが打ち破る。


「そうか。まぁ式神しきがみ使いやら鬼憑おにつき? だったか? そういうのもいると聞くし、おかしくはないな」


 彼女の言葉に楓加ふうかも同意の意味を込めてか、ライに近寄ると右手を差し出した。


「ウチ、楓加ふうか! よろしくね!」


【ライ……ライ? まぁその、なんだ。ワタシとタツマ、共によろしく頼む】


 楓加ふうかのフレンドリーさに困惑しながらも、ライは差し出された手を舐めた。その絵面えづらを見つめながら、辰真たつまは思う。


退魔師たいましになったけど……この先、何をせばいいんだろう……)


 ****


 自己紹介を終えた四人は、男女に分かれて更衣室へと入って行った。隊服に着替えるためだ。一緒に入ってすぐに、志修那しずな辰真たつまから距離を取り、一番奥のロッカーに手を伸ばした。


「先に言っておくけど、僕は怖がりでもあるんだ! だから慣れるまでは! 僕に近寄るなよ! 慣れるまで!!」


(……一応、順応しようとしてはくれているのか……?)


 そんなことを思いつつ、辰真たつまは一番扉側のロッカーに手を伸ばし、隊服に素早く着替えると、少し距離を開けて男子更衣室を出た。

 しばらくして、女子更衣室から操姫刃ときは楓加ふうかも出て来た。楓加ふうかがスカートで、操姫刃ときはがスラックスだった。


「ジェンダーレスな世の中だしな、スラックスでも不思議ではないが……えっと初架はつか? 君、僕なんか足元にも及ばないイケメンと化してないか!?」


 志修那しずなの言葉に操姫刃ときはが相変わらず淡々とした態度で返事をする。


「知らん。おれは動きやすさを選んだだけなのでな」


 そんな彼女に対してかは不明だが、着替え終わるのを待っていた和沙かずさがゆっくりと口を開いた。


「……服装に関しては、からの苦情などからの判断。気にしないこと」


 そう言われてしまえば、全員黙らざるを得なくなる。なお、ライは再び魔本の中だ。


 そんな四人に向かって、和沙かずさが告げる。


「では、これより室内の設営と各々おのおの能力把握テストについて説明するから。心して聞くように」

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